さらに続ける。
靖国参拝の問題についても、本書の指摘はなかなかいいところを突いている。
中曽根首相が靖国に参拝したときに当時の中国の総書記に出した手紙で「靖国参拝は重大な外交問題である」と書いていたことを指摘し、それゆえ公式参拝中止は外国に約束したことであり、小泉がそれを覆したことは日本が外交政策を転換したというメッセージを送ったことを意味するという指摘が第一である。つまり、靖国問題は外交問題なのであり「内政干渉」などというのはおかしいのである。
もう一つは次の引用箇所である。
「靖国神社はもともと薩長を中心とした兵隊の慰霊のために、明治の初めに建てられた慰霊用の神社である。そして、戦前は軍国主義militarismと愛国主義nationalismの象徴として、陸軍と海軍が管理した軍人用の神社であった。そのために、戊辰戦争(1868-1869)や西南戦争(1877)で
官軍と戦い、戦死した兵隊は祀られていないし、日本兵でも台湾人や朝鮮人軍属の戦死者は、
植民地人colonial peopleという理由で排除されている。また、それ以上に重要な靖国神社の性格は、戦火で死んだ
一般市民ordinary peopleも除外されているということである。だから、靖国神社は、戦没者に対する慰霊施設とは言えないし、無名戦士unknown soldierという普遍性も存在していないのである。(p.240、強調は引用者)」
要するに靖国神社は軍国主義とナショナリズムの象徴でしかなく、そこに公的に参拝することは軍国主義とナショナリズムを公的に正当化する行為なのである。

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