2014年の出来事を回顧してみる。
◆12/14の総選挙。
議席で見るとほぼ現状維持で、自公で2/3を確保するという「大勝/圧勝」となった。自民党への票は以前より減っているが、争点がなく、投票率が低かったせいで組織票を持つ政党(自民、公明、共産)に有利な結果となった。
現在の選挙制度では議席数に民意は反映されないということはもっとメディアでも強調されてよいはずだ。
そもそも、
今回の解散が憲法違反であるかどうか、という重要な問題がほとんど問われていないということも問題だ。このままでは首相は、恣意的に解散権を行使することができ、
公権力の私物化を許すことになる。
「まだ成果が出ていない」「道半ば」であるとする「アベノミクス」の是非を問うという争点設定は、姑息だが巧妙なものだった。(最初は「消費増税の先延ばし」というのが争点として設定されつつあったが、途中から論調を変えた。解散に大義がないという批判に対して、税は重要な問題だから解散の大義があると自民党側は主張したが、争点が「アベノミクスの是非」にあるのなら、
単なる経済政策によって、それも以前の総選挙から方針を変更するわけではないのに解散したということになる。)
その上、
メディアに対する公権力を背景とした恫喝・牽制も功を奏した。これによって、閣僚による政治とカネに関する問題や野田内閣解散の際に
安倍晋三が国会で行った約束に対して、彼が違反していることなどが隠されることとなった。
◆7/1集団的自衛権の行使を容認する(?)閣議決定。
実質的に「単なる経済政策を、以前の総選挙と同じで良いか」ということを問うためにわざわざ「民意を問う」と言いながら衆議院を解散した安倍晋三は、集団的自衛権の行使容認というより議論の分かれている問題については、国会で審議することすらなく、独断独走で閣議決定を行った。(4/1には武器輸出三原則の見直しも同じく行っている。これは消費増税と同時期であることもあり、集団的自衛権よりも扱いが小さいが、直接的・短期的な意味ではより重大な問題でさえある。)
原発の再稼働へ向けて、大々的な議論になることを避けるようにしながら、次々と動き始めていることなども含め、
誰にでもすぐに実感できるわけではない問題は選挙では争点になりにくいし、投票を規定する力が弱いことを利用されている。
議会制民主主義を利用しながら、民主的な意思決定を封殺し、独裁的な政治決定を次々と重ねて既成事実化を進めていく。既成事実化が進むと、それを容認させるように(マスメディアを広報機関のように利用しながら)世論を誘導していく。こうやって
非民主的な意志決定に対する抵抗を避けながらずるずると独裁的な決定を容認させていく。まさに(麻生太郎が言ったように)
「ナチを参考にしている」という感じがする。
軍事最優先の発想を持ちながら、それを隠すために経済政策を前面に出している安倍晋三の思うままに進んでいった先に何があるのか?中韓との関係の悪さから推して想像がつくように思われる。(その上、中国は今後高齢化が一挙に進み、経済状態が悪化するだろうから、
中国における排外的ナショナリズムが現在より高まっていくリスクがあるということも考慮すべきと考える。)こうした文脈の中に位置づけて「集団的自衛権」は論じられる必要がある。
2015年の統一地方選の後、国会でこれに関連する法案が次々と登場するだろうが、どの程度の議論が国会で行われ、それがどのようにメディアで報じられるのか、心もとないが注視する必要がある。
◆4/1消費税が5%→8%に増税。
私は増税論者である。8%への増税によって消費が落ち込み、景気が悪化したと言われる。影響がなかったわけではないのは確かだろう。しかし、それは
過去に租税負担よりも政府から受ける給付の方が多い状態を続けてきた(これによって実力以上に景気を底上げしてきた)ことについて、その底上げが少し減った、という程度のことにすぎない。
その意味で消費税の増税自体に問題があるとは思わない。ただ、それが位置づけられている文脈を見ると問題がある。
まず、消費税を増税したら、法人税の減税の動きがすでに出てきており、これがあっという間に決まったということである。これまでも消費増税は法人減税で相殺され続けてきた。財政赤字の拡大がとまらない大きな要因がこうした税制改正を続けてきたことである。今回も消費税を上げても財政の健全化には全く繋がらないだろう。大企業の経営者や株主(外国人も多い)が喜ぶだけで、それ以外の一般の人々にはデメリットだけが押し付けられている。
財政を再建しないにもかかわらず、日銀を支配下に置いて言いなりにしている政府は日銀に国債を買い取らせることで、国債発行をかつてないほどの規模で進めている。
財政悪化によるリスクを増大させながら、そのツケを未来に先送りしている。アベノミクスの金融政策にはこうした意味もあることは銘記されるべき。
こうした枠組みの中で消費増税が行われ、次も行なわれるということは問題である。消費増税は所得増税や法人増税、特にその累進性強化とセットで行い、それによる財源をどのように給付側で使うか(国債発行を減らしつつ、給付を充実させる部分をどこにするか)という議論とセットで行う必要がある。
◆野党の動きでは「リバタリアン的な野党」の小規模な再編が注目に値する。
まず「みんなの党」が渡辺喜美代表(当時)の8億円借り入れ問題によって代表辞任、失速。これ自体は望ましい方向性ではあった。ほぼ同じ時期に「日本維新の会」が極右イデオロギー政党である「次世代の党」と橋下徹率いるグループとに分党し、イデオロギー的な純化が進んだことも方向としては望ましいものであった。その後、「次世代の党」は12月の選挙で惨敗し(これは当然の結果である)、「みんなの党」から分かれた「結いの党」が後者と合併して「維新の党」となった。イデオロギー的には両者の違いがほとんどなくなったのだから、自然な成り行きではある。しかし、今後、この勢力が勢いを増していく可能性があり、安倍晋三よりはマシではあるが、警戒が必要な状態になったとも言える。
15年1月に行われる予定の民主党の代表選後の動きを受けて、野党がどう動いていくのか?現状ではリバタリアン的な方向で一致点を見いだして協力していくか、曖昧なままつかず離れず的な形で現行の選挙制度では不利な形が続くのか、注視が必要と思う。
◆政治と直接かかわりがないように見えるSTAP細胞に関する捏造論文については、科学研究のあり方、特に予算と研究業績との関連ということと絡めて見る必要があると思われるが、マスメディアではワイドショー止まりの扱いで終わっているのが残念である。
◆政府の「河野談話」見直しの動き(その取消し)と作成過程の検証。朝日新聞の「吉田証言」に関する誤報。さらには福島原発の「吉田調書」をめぐる誤報。これらによる朝日バッシング。
安倍政権の歴史修正主義(私の言うところの「自慰史観」)とそれに利用される朝日。朝日バッシングは、
読売、産経、NHKという「政府広報化」した(しつつある)メディア状況の中で、唯一の非常に大きな報道機関が政府の軍門に下るかどうか、という問題であり、極めて重要な問題を孕んでいる。(毎日新聞や東京新聞は重要なメディアだが、読売、朝日、NHKと比較するとそれに対抗できるだけの規模を持たないとも言える。)
なお、歴史認識に関する懸念としては、
「吉田証言」に関して誤報をした→朝日のスタンス(歴史修正主義ではない)は誤り→歴史修正主義が正しい、というような二重の論理的飛躍を介して、誤った歴史認識が広まることがあげられる。
◆沖縄県知事選と衆院選での沖縄での基地推進派の全敗。単なる経済政策で「民意を問う」た首相は、この民意にも耳を傾ける必要があるはずだが?

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