「税源移譲で二重課税というのは本当か?【改訂版】」
税財政
24日、
はなゆーさんのブログで以下のような怪情報が報じられた。
私は一時期、税制や財政問題について調べていたこともあって、
所得税にはある種のこだわりを持っている。よって、一応これに答えてみようと思う。
(以下の内容を嘘だと思うなら税務署に確認してみるとよろしい。政府の言うことは信用できない?だったら、市町村の住民税担当課と税理士の合計3者に当たればいいだろう。税理士は有料かも知れないけどな。)
自民公明政府与党は、平成18年の税源移譲時に所得税と地方税の二重課税を行いました。
最低課税所得の所得税+地方税の税率推移
平成16年=15%、平成17年=15%、平成18年=20%、平成19年=15%
平成18年の5%分が二重課税です。
国は平成18年の地方交付税を税源移譲分減らして、3兆円を隠しました。いわゆる埋蔵金です。
3兆円の二重課税、正確に言うと、同一課税標準に対する二重課税です。
納税者から税源移譲と定率減税廃止のドサクサにまぎれて騙し取った3兆円をどこに使うのでしょうか?
これが怪情報の前半部分である。
後半部分は明らかな間違いなので割愛する。
結論から書くと、
余分に多くの税が徴収されているわけではない。当然、3兆円の埋蔵金も発生しない。総務省の言うように
「税源の移し替えなので、「所得税+住民税」の負担は基本的には変わりません」。
まず、予算というのは年度ごとであることに着目して整理しなおしてみる。
最低課税所得の所得税+地方税の税率推移は以下のようになる。
会計年度 H16年度 H17年度 H18年度 H19年度
所得税 10% 10% 10% 5%
住民税 5% 5% 5% 10%
予算はこれをベースにして組まれる。従って、
どの会計年度でも最低税率は15%となり、税額の総額は増えない。
以上では
「年度」単位で整合性が取れていることを見た。これは
政府の歳入は毎年15%分で変わっていないことを意味する。
以下では考察の単位を「年度」から「暦年」に変える。これによって(政府ではなく)
個々の納税者がどの年に発生した所得にどれだけ課税されるかということを確認するものである。
まず、
平成18年1月1日から12月31日までに発生した所得に対しては、怪情報が述べているように20%になるので、
通常よりも重い税が課されていることは間違いない。
(だから、この年にだけ突出して所得が多かった人は相対的に言って損をしたことになる。だから総務省の言い方も「基本的に変わりません」となっているのだ。)
これをどう考えたらいいのか。これは「二重課税」なのか?
確かに、
1年だけでも重い税が課されているのだから、その分多く取っているのでは?と思うかもしれない。
しかし、そうではない。(以下2段落を、論旨を明確にするために追記する。2008.3.15)
なぜならば、
二重にとられたように見える5%分は、平成19年分の所得税の税率が税源移譲前ならば10%だったはずなのに、それが5%に減ることによって「相殺」されるからである。
疑い深い人は「平成19年分の所得にも15%の税率がかかるから先延ばしじゃないか?」と思うかもしれない。しかし、それも間違いである。その後の
生涯を通じた納税額にもほとんど影響がないのだ。(ここではむしろ「減税」になる人の方が多いくらいだ。)
それは例えば、上の税率が課された人が
平成20年中に死んだと仮定してみれば分かる。
平成20年度には所得税5%と住民税10%で課税される。これは「
平成20年分の所得に対する所得税5%」と「
平成19年分の所得に対する住民税10%」ということである。
この次の年にこの人が課税されることはないということは、
平成20年分の所得には所得税しか課税されず、住民税は課税されないことを意味する。だから税率は5%で済む。そして、これは税源移譲前なら10%かかるはずだったものだ。
つまり、平成18年分の所得には5%多く課税されることになるが、死亡した年(この例では平成20年分)の所得には逆に5%少なくしか課税されないのである。
(この際、細かいことを言えば、死亡するタイミングにより多少の損得はありうるが「誤差の範囲内」として捨象する。)
もう一度、表で表すと次のようになる。住民税は所得は発生した後、一年遅れで課税されるので、以下の表では同じ年の所得に対する課税は同じ色になるように着色してある。
会計年度
H17年度 H18年度 H19年度 H20年度
所得税
10% 10% 5% 5%
住民税 5%
5% 10% 10%
この表で
太字になっている5%(平成20年分)は、税源移譲の前なら本来10%になっていたはずのなのだ。平成18年分の所得に対する課税が5%多くなった分は、ここで辻褄が合うことになる。
以上より、暦年で見てもトータルでは基本的には辻褄は合っていると言える。つまり、
支払う税率(≒税額)はどの年度も変わらないが、いつの所得に課税されるのかという内訳が変わるだけなのである。
怪文書の主は、最初の税率が重くなる平成18年分だけを見て、後で税率が軽くなる分を見なかったので間違っているのである。
以上により、総務省のように言って差し支えない。すなわち、「
税源の移し替えなので、「所得税+住民税」の負担は基本的には変わりません。」Q.E.D.
念のため付け加えれば、払う税額はどの年度も変わらない(税金が多く取られているわけではなく、課税される所得の内訳が変わっただけ)のだから、
3兆円が埋蔵金になるはずもない。
以下、余談というか、思うこと。
それにしても、最近、ウェブ上で
税財政のことが話題に上るケースが増えている――何度か誤りを指摘したりもした――けれども、
あまりに基本的な知識を押さえていないものが多いのに愕然とすると同時に辟易してもいる。
一知半解なのは素人だから仕方ないとは思うが、そこにつけ込んで
嘘の知識を吹聴して回る輩がいるというのは世も末である。(はなゆーさんのことではありません。念のため。)
特に、政治的にシンパシーを感じる人のブログだからと言って簡単に信じてはいけないのが痛いというか「むず痒い」ところだ。実際、
リベラル系のブログでもかなりの間違いが横行していると私は見ている。(見ていて「何じゃこりゃ?ありえねー」ってのが結構ある。)
だから、ぶっちゃけて言えば、
素人の書いているブログや掲示板で税や財政のことが書かれていても大抵間違いが含まれているから、あまり信じないほうがいい、とは言えると思う。(
一般的に言って、自分から見て都合のいいものほど疑う必要がある。)私も玄人ではないが。
うーん、自己言及のパラドックスみたいですな。(「クレタ人はすべて嘘つき」というやつ。)まぁ、「なぞなぞ」みたいな変な問題を解いた後は、こんな感じで終わるのがいいかもしれない(爆)。

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