「日本は高負担国家なのか?――Luxemburgさんへの批判(その1)」
税財政
今回はリベラル系のブログ「A Tree at ease」の1月28日のエントリー「
国民負担率の「賞味期限」」における「日本はスウェーデンより高負担国家」という主張を批判する。
このエントリーでは、財務省(や、それに追随するマスコミなど)が「国民負担率」を根拠にして増税を主張しようとすることに対して批判するのが趣旨らしいのだが、「国民負担率だけで判断してはいけない」というところまでは私も同意する。賞味期限切れで今後は使うなということになると疑問だし、恐らく政策的なスタンスは私とLuxemburgさんとで違うのだろうとも思っている。
能書きが長くなったので、早速本論に入りたい。批判や質問したいことは多いのだが、今回はそれを4点に絞って論じることにする。
※ このエントリーでは、Luxemburgさんが書かれたことを緑色で表記する。一見して分かりやすいからだ。但し、Luxemburgさん自身が文字に着色している箇所は可能な限り、その色使いに従うことにする。
【論点1】「日本は高負担国家」であるという認識について
まず、Luxemburgさんは、次のように言う。
確かに、スウェーデンは70%くらい持って行かれるように見えるが、実際には「あずかる」だけで、政府は素通りして、そのまま右から左へ50を国民に配る。それがばらまきかどうかは別として、金額としては国民から集めてそのまま国民に配るので国民は負担していない、のだ。
ここから、Luxemburgさんは、
負担から受益を差し引いた「純負担」の問題としてスウェーデンと日本を比較しようとしていることが分かる。
スウェーデンが国民から税金と社会保険負担を高額徴集するが、社会保障の給付が手厚いということには私にも異存はない。ところが、Luxemburgさんは、次のような評価を下す。
スウェーデンの本当の国民負担率は、20%そこそこである。日本は40%ほど集めて15%ほど配るので、本当の国民負担率は25%ほど。スウェーデンより負担は重い。
その根拠は?
Luxemburgさんによると、
1年くらい前のエントリーで論じていたそうである。そこでは以下のグラフや表を用いながら分かりやすく説明されていた。
左側の棒の赤が税金、ピンクが社会保険料である。それだけいったん支払ったことになる。
次に右側の緑色が社会保障給付で、その分は国民に返ってくる。そして、その差引の青色部分が、実際に政府が活動するための費用である。
ここから分かるのは、
Luxemburgさんは、社会保障給付のみを「国民に返ってくる」ものとして捉えているらしい、ということである。
ところが、1月28日のエントリーではLuxemburgさんは次のように結論付けている。
再度いうが、ここまで考えても日本はスウェーデンより高負担国家である。
これでは論理が飛躍していることになる。
今まで見てきたLuxemburgさんの議論では、
日本では「支払いの割に社会保障として戻ってくるものが少ない」としかいえない。それなのに、結論は「支払いの割に全体として戻ってくるものが少ない」と言っていることになるからだ(★注1)。
(★注1)このことと関連がある事柄――見えない受益の存在――について、若干異なった切り口から述べたものがここにあるので、興味がある方は参照されたい。
なお、このエントリーでの私からLuxemburgさんへの批判は、以前、ケンシロウさんに対して行なったものと全く同じことである。
両者とも純負担に着目し、その中で社会保障(とケンシロウさんの場合はさらに教育)だけを強調しているにも関わらず、あたかも「全体として負担が重い」と主張しているようだからである。
【その2につづく】
【関連エントリー】
◆
日本は高負担国家なのか?――Luxemburgさんへの批判(その2)
◆
日本は高負担国家なのか?――Luxemburgさんへの批判(その3)
◆
負担とは何か? ←私の論点を理論的に整理したエントリー
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神野先生の近著。わかりやすいだけでなく、内容もなかなか濃いので、財政を論じる方は必読です。

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