
ロンドン滞在中見た芝居の中で、私のベストワンだった芝居は、これです。
「Embers」!!
ジェレミーアイアンズと、パトリックマラハイド(?Patrick Malahide)の、ほぼ二人芝居!!このお二方は映画でも活躍しているので、ご存知の方も多いはず。実は私と夫はこの有名な二人の芝居だということを知らずに観に行ったのですが。上演していた劇場が、Duke of York's Theatreといって、私の大好きなピーターパンを1904年に初演した劇場だったのです。今回の旅の目的のひとつ、「あのDuke of York's Theatreで芝居を観たい!」を叶えるためにいったのです。

このベテラン二人の緊張感漲るやりとりは、ほぼ言葉の分からないわたしたちをもひきつけてはなさず、鳥肌が立つくらいでした。

↑スクリプトももちろん売っていたので訳すことに。
40年ぶりに再会した親友、初老の二人が、何気ない調子で「今までどうしていた?」「最近はどこに住んでいるんだ?」などと会話を始めますが、この二人には今まで語ることのなかったあの夜の出来事が常に脳裏に焼きついています。
40年前、パトリック演じる芸術肌の男コンラッドと、ジェレミー演じる軍人の家で育った男ヘンリック、と、その美しい妻、クリスチーナ、三人でウィーンに狩をするため旅行した時のこと。その夜コンラッドが謎の失踪を遂げてから、今夜が40年ぶりの再会になるわけです。二人は探り探り会話を進めていくわけですが、後半はやはり「あの夜何があったのか」に絞られて行きます。
そこには妻とコンラッドの関係、親友として幼い頃から一緒に暮らしてきた二人が抱えていた嫉妬や不安、「芸術家肌の男」と「軍人の由緒正しい家に生まれ育った男」の、どうしても逃れられない「人種」の違いへの複雑な思い、あの夜コンラッドとヘンリックの妻は、ヘンリックに「何を」しようとしたのか??
かなり冒頭の、二人が再会して間もない時の会話で、
コンラッド「あれ?クリスチーナは…亡くなったのか?」
ヘンリック「…どうして知っているんだ?」
コンラッド「いや…姿が見えないから。」
ヘンリック「あぁ…。死んだよ。君が去ってから八年後に…ね。」
コンラッド「そうか…。」
もうこの辺から、二人の探りあいが始まって行くわけですが、核心に近づいたかと思うと、世間話的なことを始める、ふと思い出話に花が咲き笑いあったかと思うとじっと見つめて危ういことを切り出す、など、息もつかせぬ展開でした。
特に感動したのは後半です。前半伏線を張れるだけ張って観客の好奇心をかき立てるだけかきたてた二人は、「Shall we go in to dinner?」と、余韻を残したまま部屋を出ます。休憩が入り二幕になると、沈痛な面持ちのコンラッドと、戦闘態勢に入ったヘンリックがいて、ここから後半ヘンリックが喋りっぱなし!!
コンラッドはうなづいたり何かを言いかけようとしてやめたり、短い言葉のみで返して行くわけですが、同じ重さの緊張感!ヘンリックは問い詰めたり、自分を責めたり、もうこれ以上は聴きたくないと、方向を変えたり自由自在に話し倒す。もう圧巻です!!
人生の華々しい時期が終わり、これから命のともし火が消えて行くだろう初老の二人が最後の力を振り絞って自分たちの友情の行方を見極めようと奮闘する姿は、哀れで物悲しいけど人生を深く考えさせるといった、素晴らしい物でした。題名「Embers」は「燃えさし」という意味。暖炉に残ったもう殆ど炭になっていく、でもまだちらちらと赤い部分がゆれている、そんな燃えさしと、この芝居のイメージはぴったりだと思いました。

今年3月、Duke of York’s Theatre 前。

残念ながらこの演目はもう終わっているようで、今デュークオブヨークスシアターでは「Rock’N’Roll」という演目を上演しているみたいです。いい劇場なのでロンドンに行った際にはチェックしてみてください。

ちなみにこの劇場は、舞台裏ツアーをやっているらしく、上がその記事です。これも旅の目的だったのですが、この記事が見つからず、英語も美味く通じず、私たちは申し込めませんでした。興味のある方はいってみてはいかがでしょう??

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