2021/11/26

5748:3楽章  

 ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲した数多くのピアノ協奏曲のなかにおいてもひときわ輝き、古典派ピアノ協奏曲の最高峰に位置する一つとされる。

 第1楽章は、型どおりの古典派の協奏ソナタ形式である。オーケストラが提示した主題をピアノが繰り返す明快な形式美が気持ちをすっきりとさせてくれる。展開部では、提示部の主題ではなく新しく導入された主題が使われる。

 ピアノ協奏曲第23番は、SONY CF-2580から静かに流れた。店内には私のほかに客が一人いた。60代後半と思しき男性が二人掛けのテーブル席に静かに座っていた。

 どうやら現役世代ではないようである。なのでもはや時間に追われることはない。時間はゆっくりと淡白に流れ去っていく。「潤沢にある時間をどうやって過ごせばいいのか・・・」その解答の一つが、この「Mimizuku」であったようである。

 第2楽章は、モーツァルトに珍しい嬰ヘ短調がとられている。シチリアーノのリズムに基づいた、静かでメランコリックな旋律が情感たっぷりに歌われる。物思いに沈んだように静かで短い楽章である。

 いつもカンター席で見かける「ゆみちゃん」の姿はなかった。新宿区のIT企業に勤めている彼女は、緊急事態宣言が解除された後も原則テレワークである。

 テレワークの時には午前中は自宅で、午後からは気分を変えるためにこの店のカウンター席に場所を移して仕事をすることが多かった。

 今日は週に1回程度と言っていた出勤日であったのであろうか、あるいはWEB会議の予定が入っていたのかもしれない。

 第3楽章は、ピアノの軽快なソロで始まる。風向きはさっと変わる。南風になったのである。ロンド主題が4回現れる間に、魅力的な副主題がいくつも用いられているのが、この楽章の魅力である。

 最近は暗くなるのが早い。時刻は4時半を過ぎた。窓の外の明るさが急速に失われていくに従って、店内の白熱灯のオレンジ色が濃くなっていく。白熱灯は穏やかな色合いで、それを目にする人の心を落ち着いたものに変えていってくれる。

 ブレンドコーヒーは既に飲み終えた。モーツァルトのピアノ協奏曲第23番も終わった。やがてカセットテープはその動きを止めた。ややあって下に押し込まれていたCF-2580のPLAYボタンがカチッと音をさせて元に戻った。

 会計を済ませて店の外に出た。陽が落ちると気温がぐっと下がる。冷やかな空気のなか、コインパーキングまで歩いていき、車に乗り込んだ。

 BMW 523i Touringは納車から5年が経過し、走行距離も10万kmを超えた。そんな長い付き合いとなった「相棒」のエンジンをかけて、コインパーキングから車を出した。異変を感じたのは、コインパーキングを出てからすぐであった。




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