2021/10/20

5711:最高の贅沢  

 続いてレコードの出番となった。FMさんはオーディオマニアであるとともにコアなレコードコレクターでもある。

 部屋のレコード収納棚には1万枚を超えるレコードがぎっしりと詰め込まれている。メロディアやスプラフォンといった旧共産圏国家のレコードのコレクションが充実している。旧共産圏のレコ−ドはビニール素材の品質が低く、そのコンディションが劣化しているものも多いが、「不思議と芸術性・音楽性は高いんですよね・・・オーディオ的には音が良いというわけではありませんが・・・」と、その旧共産圏コレクションは今も増え続けているようである。

 ガルネリ・メメントで最初に聴くならこのレコードと決めていた1枚を取り出した。ジャクリーヌ・デュ・プレのチェロによるベートーベン チェロソナタ第3番である。

 3枚組のボックスからその1枚を取り出して、ORACLE DELPHI6のターンテーブルにセットした。まだ針先が暖まっていないので、針を盤面に降ろして「暖機運転」を開始した。

 その間、コーヒーをもう1杯用意して雑談タイムを過ごした。FMさんはFM ACOUSTICSのフォノイコライザー、プリアンプ、パワーアンプをお使いである。FM ACOUSTICSはメンテナンスが高額で大変という話を聞いたことがあるので、質問してみると、「モジュール交換が必要な修理の場合は高額です・・・それ以外の修理で済む場合には、それほどでもないんです・・・いつもひやひやですけどね・・・」との回答であった。

 針先は片面の最後の方まで移動したので、一旦針を上げた。針先を清掃して、プリアンプのボリュームを所定の位置まで上げた。

 そしてアームリフターを下げて、再度針先をレコードの盤面に降ろした。着地した時に「ブツッ・・・」と音がして、サーフェスノイズが静かに響いた。

 そしてベートーベンのチェロソナタ第3番の主題が厳かに響き始めた。ピアノ伴奏はダニエル・バレンボイムである。

 「若々しいな・・・デュ・プレが若い、その息遣いも生々しい・・・空間が明るく、澄んでいる・・・」

 このレコードが録音されたのは1970年8月である。デュ・プレは25歳である。25歳のデュ・プレの等身大の姿が感じられた。

 アントニオ・ストラディヴァリが制作した60余りのチェロの中でも指折りの銘器と言われる1713年製ストラディヴァリウス “ダヴィドフ”の響きは、華麗にして透明感に溢れている。

 TANNOY GRFで聴く時にはじんわりと心に染み入ってくる感じであるが、ガルネリ・メメントでは、華やかで凛々しい。

 続いて、ORACLEのターンテーブルに乗ったのは、ヨハンナ・マルツィのヴァイオリンによるシューベルトのソナチネ第2番である。ヨハンナ・マルツィは、ルーマニア出身の、ハンガリーで活躍したヴァイオリニストである。

 録音は1955年。もちろんモノラルである。イコラーザーカーブは「NAB」。Marantz Model7のイコラーザーポジションを「NAB」に合わせた。

 そして聴いた。先ほどのデュ・プレのときとは違った。「あれっ・・・何かがずれているな・・・深みのある芸術性が感じられない・・・表面をなぞっただけのような印象が・・・」そういった印象は最後の楽章が終わるまで続いた。

 そして、最後にかけたのがIlze Graubinaのピアノによるスカルラッティのソナタを6曲聴いた。レーベルはメロディア。

 こちらは良い印象である。明るく煌めく音色は爽やかでありながら深みがある。彼女の高い音楽性・芸術性が感じられた。

 録音時期はアナログとしては比較的新しい1970年代後半。アナログの場合、録音時期が新しいものに関しては素晴らしい表現力を感じた。

 唯一1950年代の古いモノラル録音の場合、TANNOY GRFの聴かせる深みのある音楽性・芸術性と比較してしまうと、物足りなさを感じた。

 1950年代の古い真空管アンプで駆動したソナスファベールのガルネリ・メメント・・・・予想していたよりも印象はとても良かった。このリスニングルームでGRFと併設して聴き続けることは可能であろうか・・・今後幾つかの微調整を繰り返して検証していきたいと思った。

 「箱に戻すのはもったいない感じですね・・・このまま置いておけばいかがですか・・・ケーブルの差し替えは2分ほどで完了しますから、二つの世界を味わえるのは最高の贅沢でしょう・・・」と、FMさんは満面の笑顔であった。

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