2021/6/4

5573:明日海りお  

 FMさんのお宅は埼玉県狭山市にある。リスニングルームの広さは10畳ほどであろうか・・・防音に関しては特別に配慮されているわけではなく、音響調整を目的としたパネルなども部屋の中には見当たらなかった。

 お宅の右隣りは大きな病院が建っていた。左隣は畑となっている。隣家がないので防音には気を遣わずにすむ環境のようである。

 オーディオという趣味は防音に配慮する必要がある場合が多い。我が家も最初のうちは防音のために特別な配慮をした部屋ではなかった。

 その後、防音機能のあるリスニングルームにリフォームした。そのおかげで時間を気にせずにオーディオで音楽を聴ける環境を得ることができた。

 FM ACOUSTICSの三つのオーディオ機器にはすでに電源が入れられていて、ORACLEのDELPHI 5のターンテーブルもゆっくりと周回を重ねていた。

 壁一面を覆いつくすかと思えるほど大きな作り付けのレコード棚から1枚のレコードが取り出されて、DELPHI 5のターンテーブルにセットされた。

 レコードはメロディアのものであった。例のごとく共通紙ジャケットであるので、ジャケットには収録曲や演奏者は全く記されていない。

 そういった情報は、レコードラベルに記されているのであるが、ロシア語表記であるので、何と書いてあるのか分からない。

 「マリア・ユーディナのベートーヴェンのピアノソナタ第28番です。マリア・ユーディナはスターリンが愛したピアニストとして有名ですが、彼女はけっして体制に迎合することなく、むしろ反抗的であったので、かなり冷遇されていたようです。スターリンとの間のエピソードは、映画『スターリンの葬送狂騒曲』の冒頭でも描かれています。」

 FMさんはマリア・ユーディナの演奏が好きなようであった。前回訪問時も彼女のピアノによるバッハの「半音階的幻想曲とフーガ」を聴かせてもらった。

 「彼女の演奏を聴いていると、宝塚の男役を連想するんですよね・・・例えば元宝塚歌劇団花組トップスターであった明日海りお・・・聴きながらふとその姿を連想するんですよね・・・知ってますか明日海りお・・・?」

 とFMさんに尋ねられたが、宝塚に関しては全く知識も興味もなかったので、「すみません・・・全く知りません・・・でもイメージできますよね・・・内面的な強さというか、しなやかであはあるけど強靭な精神力といったものを、マリナ・ユーディアの演奏からは感じられますからね・・・」」と、私は答えた。

 4楽章を通して聴いた。時間にすると20分ほどである。ピアノソナタ第28番は1816年に作られた。この曲はベートーヴェンのピアノの生徒でピアニストとして素晴らしい才能を持っていたドロテア・エルトマン男爵夫人に捧げられている。

 エルトマン男爵夫人はベートーヴェン亡き後もおりにふれてベートーヴェンのピアノ曲を演奏し、その普及に大きな貢献を果たした。

 彼女は1781年生まれ。ベートーヴェンにピアノを習い始めたのは1803年からで22歳の頃である。そしてこの曲を献呈されたのは35歳の時ということになる。

 ベートーヴェンが彼女にこの曲を捧げた時に添えた手紙には次のように記されていた。「さあ、どうぞ受け取って下さい、あなたのために長い時間をかけて作ったこの作品を・・・あなたの芸術の才能とあなた自身に対する私からの賞賛の証しとして、どうかお手元に留め置きください。」

 「この曲からは、ベートーヴェンの秘められた感情を強く感じるですよね・・・」とFMさんは話されていた。

 さらに「ベートーヴェンには強靭さとともに、人間の脆さを感じさせる曲があり、この曲もどちらかというと脆さを強く感じますね・・・この年齢になるとそういった脆さが心に染みるんですよ・・・」と話されていた。

 ピアノソナタ第28番が終わった後、針先が盤面から上げられて、SME製のアームはアームレストに戻された。

 そして「さきほど話した『明日海りお』ですけど、これです・・・」と、FMさんはご自身のiPhone 11の画面を見せてくれた。

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 「彼女は1985年6月の生まれで、現在35歳・・・ドロテア・エルトマン男爵夫人がベートーヴェンから、この曲を送られた時と同じ歳です・・・」と呟かれた。




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