2021/5/2

5340:オンディーヌ  

 緊急事態宣言のなか始まったゴールデンウィーク・・・旅行や帰省は極力差し控えるようにと小池都知事は声高に話していた。

 昨年のゴールデンウィーク同様、旅行などの遠出はできない。しかし、一日中ずっと家に籠っているのも息が詰まるので、「近場なら少し出かけてもいいかな・・・」と思い、車に乗って国立市に向かった。

 道は空いていた。自宅から車で30分程度で国立駅の南口に達した。コインパーキングに車を停めて、少し歩いた。

 午後の早い時間帯である。少し強めの風は吹いていたが、まだ天気は良かった。天気予報によると夕方から天気は崩れるようであった。

 「もしかして休業しているかな・・・」と心配しつつ向かった先は名曲喫茶「無言歌」である。ここはしっかりとした味わいの珈琲を出してくれる。

 設置されているオーディオ装置は日本製の古いもので、どれも1970年代の製品である。性能面に関しては特に優れた製品ではないが、私のような年代の者には、かっての「オーディオブーム」の時代を思わせてくれる懐かしい機器たちである。

 「無言歌」は営業をしていた。ビルの2階にある店に入った。店内には2名の客が座っていた。それぞれ一人で来ている。

 私はオーディオ機器に近い二人掛けのテーブル席に座った。そして「本日のコーヒー」である「グアテマラ」を注文した。

 そして、私にとっては「初恋の人」ともいえるYAMAHA CA-V1の変わらない姿を目にした。YAMAHA CA-V1は、その当時の流行りであった出力レベルメーターが備わっていて、さらにラックに設置する際に手で掴むハンドルも両サイドの備わっていた。

 そのデザインは1970年代のYAMAHAらしく実によくまとまっている。さらに色が精悍なブラックで、その色合いとデザインが絡み合って、発売当時中学生だった私の心をつかんだ。

 レコードプレーヤは、プリメインアンプと同じくYAMAHAのYP-400である。こちらもその時代のYAMAHAデザインの粋を感じさせてくれる。

 そして、スピーカーはPIONEER CS-E700である。サランネットに覆われていてユニットの様子はわからないが、3ウェイスピーカーである。「オーディオブーム」の頃、3ウェイはもてはやされたものである。

 テーブルに運ばれてきたグアテマラコーヒーを一口飲んだ。果物を思わせるやや強い酸味と、花のような芳しい香りが特徴的である。

 先客の2名は初老の男性と20代と思われる若い女性であった。初老の男性はランチに来ているようで、この店の売りの一つであるカレーライスを食べていた。

 若い女性は珈琲を飲みながらスマホを熱心に覗き込んでいた。PIONEER CS-E700からはラヴェルのピアノ曲が流れていた。

 現在かかっているレコードのジャケットはレコードプレーヤの横に立てかけられている。そのジャケットを覗き込んだ。

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 そのレコードはペルルミュテルの演奏によるラヴェルのピアノ曲が収められたものであった。ちょうど「夜のガスパール」が流れていた。

 「夜のガスパール」は、ボードレールにも影響を与えたという夭折した無名の詩人アロイジュス・ベルトランの64篇から成る散文詩集のタイトルである。

 ラヴェルはこの中から幻想的で怪奇性の強い三篇を選び、その詩のイメージに大変な技巧を織り交ぜながら情熱的なピアノ曲に仕上げたのである。

 その最初の曲である「オンディーヌ」が店内に揺蕩うように響いていた。5月最初の日、名曲喫茶で「グアテマラ」を味わいながら聴く「オンディーヌ」は、より幻想的に感じられた。

 この店の暗めの照明もその演出に一役買っているようであった。そしてブラックのボディーを有するCA-V1のオレンジ色にうっすらと光る出力レベルメーターの針先の動きも、非現実的なもののように私の目には映った。 




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