2021/1/24

5440:マリア・ユーディナ  

 マリア・ユーディナの演奏による10インチレコードの盤面に、zyxのカートリッジがゆっくりと降ろされた。

 バッハの「半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV 903」が収録されたのは1948年の9月である。70年以上前の録音である。

 古いレコード特有の濃い目のサーフェスノイズがしばし続いたのち、彼女のピアノ演奏が颯爽と始まった。

 マリア・ユーディナはスターリンお気に入りのピアニストであった。彼女が録音したモーツァルトのピアノ協奏曲第23番は、スターリンの求めに応じて演奏されたものである。

 ただし、マリア・ユーディナは体制に迎合するところが全くなく、自分の信ずるところをそのまま言動に表す人であったようで、当局からの締め付けにあうことも多かった。

 有名なエピソードが残っている。上記のモーツァルトのピアノ協奏曲第23番のレコードの謝礼として多額の現金を受け取った際、彼女はその礼状に「ご助力に感謝します、イオシフ・ヴィサリオノヴィッチ。私はあなたのために日夜お祈りするでしょう。あなたが人民と国家に対して犯した大罪を、神がお許しくださるように」と記したと伝えられている。

 上記のエピソードが真実であったかどうかは不明であるが、彼女のひととなりを表すものである。

 その演奏は 奔流のような勢いと骨太な明瞭さにあふれている。純粋な音楽だけが大平原の中を進む列車のようにまっすぐに進むさまが脳内イメージ・スクリーンに映し出された。

 「半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV 903」の後には「前奏曲とフーガ イ短調 BWV543」が収録されている。

 こちらも「怪演」である。聴くものを捉えて決して離さない腕力はすごいものがある。演奏そのものが宗教的な祈りであるかのような真摯さに満たされていて、夾雑物の全く含まれない純粋性は稀有と言っていいかもしれない。

 このレコードも古いもので音質が良いとは言えない。盤面の状態も古い時代のメロディアのそれであるが、そういったマイナス要素が彼女の芸術性を損じることがないのは実にありがたいことである。

 カートリッジが拾った音楽信号は、その後三つのFM Acousticsのオーディオ機器により変調・増幅されて、VerityAudioのParsifal Encoreによってリスニングルームに放たれる。

 VerityAudioのParsifal Encoreは、全く知らなかった。決して最新のスピーカーではないようであるが、その姿同様清澄な響きが美しいスピーカーである。

 今日は二人のロシアのピアニストを堪能した。コロナウィルスが蔓延している時期なので滞在時間は1時間半ほどと短めであったが、濃厚な音楽体験ができた。 




※投稿されたコメントは管理人の承認後反映されます。

コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ