2021/1/8

5421夜明けの口笛吹き:  

 CF-1700の横には薄茶色をした箱が置かれている。その中には10数本のミュージックテープが入っている。

 私はその箱を手繰り寄せて、中を覗き込んだ。ミュージックテープは亡くなったご主人が相当数コレクションしていたものの一部のようである。

 ここにある箱以外にもたくさんの箱があり、カウンターに置かれる箱は時折入れ替わる。ミュージックテープは特定のジャンルに偏ることなく、様々なものが入っている。

 この箱の中にも様々なジャンルのミュージックテープが混在していた。歌謡曲からジャズ、クラシック、そしてロックまで脈絡なく並んでいるミュージックテープを一つ一つ見ていった。

 ミュージックテープが販売されていたのは昭和の時代である。CDが市場を席巻してからはレコード同様市場が急速に縮小してやがて消滅した。

 その中の1本を取り出した。ピンク・フロイドの「夜明けの口笛吹き」である。これが彼らのデビューアルバムである。

 「懐かしいな・・・友人が持っていたレコードをカセットテープに録音してもらって聴いていたのは、中2の頃であったであろうか・・・」と思いながら、眺めていた。

 「ちょっとBGMかけてもいいかな・・・」と同じカウンター席でテレワーク中の「ゆみちゃん」に確認した。

 「もちろん、いいですよ・・・BGMがあった方が仕事もはかどりますから・・・」と彼女は笑顔で返答してくれた。

 そのミュージックテープをケースから取り出して、CF-1700のカセットホルダーにセットした。そして「PLAY」ボタンを下に押し込んだ。

 ミュージックテープの最初はクリーニングテープになっている。その部分を通り過ぎて、1曲目が始まった。

 デビュー当時のピンク・フロイドは完全にシド・バレットが主役であった。彼が生み出すサイケデリックで歪んでいるがどこかしらポップな雰囲気も有する楽曲は唯一無二のものである。

 聴き進むうちにその独自の歪んだ世界に引きずり込まれいく感じが次第に大きくなっていく。シド・バレットはやがて実際に「狂気」の世界へ行ってしまうが、それを予見しているかのような音世界は危ない魅力に満ちている。

 1976年に発売されたSONY CF-1700で聴くピンク・フロイドの「夜明けの口笛吹き」は、時代を一気に50年以上引き戻してくれるかのようであった。

 カセットテープが回る様子を眺めていた。テープカウンターも当然アナログ方式である。その数字がゆっくりと進んでいく様は楽しい。

 「ゆみちゃん」は「これなんというバンドなんですか・・・?」と訊いてきた。「これはピンク・フロイドというバンドのデビューアルバムなんだ・・・確か1967年かな・・・もう53年も前の作品だけど・・・結構斬新でしょう・・・」と私は答えた。




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