2020/11/20

5372:ペーパーナイフ・チェア  

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 我が家のリスニングルームにある2脚のイージーチェアのうちの一つはカイ・クリスチャンセンがデザインしたヴィンテージチェアである。

 木部は今では希少になったチーク材であり、独特の深い色味が魅力的である。このチェアは、肘掛部分の造形から「ペーパーナイフ・チェア」と呼ばれている。

 カイ・クリスチャンセンは1950年代以降に家具のデザイナートとして活躍した人物である。彼のデザインのポリシーは、「見た目の美しさ、使いやすさ、人間工学に基づいていること、経済的で、環境に配慮していること」とのことで、彼のそういった理念は、この「ペーパーナイフ・チェア」に見事に表現されている。

 外観はそれほどの派手さはない。しかし、実際に座ってみると身体のカーブに実にすんなりとなじみ心地が良い。

 あまりに心地が良いので、体が疲れている状態でこのチェアに座って音楽を聴いていると、いつしか夢の世界にいざなわれてしまうこともある。

 そのチェアの脇に置かれた1960年代の初めごろにデンマークで製造された小ぶりなサイドテーブルの上には、ローラ・ボベスコの2枚のレコードが置かれている。

 どちらもルーマニアにおける録音で、1950年代終盤の録音と思われる。西側ではステレオ録音が始まっていたが、共産圏であったルーマニアでは、まだステレオ録音は一般的ではなかったようで、どちらもモノラル録音である。

 この2枚は素晴らしレコードである。1枚はバッハとモーツァルトのヴァイオリン協奏曲が収められている。

 もう1枚にはバッハ、ニン、ストラビンスキーのピアノ伴奏によるヴァイオリン曲が収められている。

 どちらももっぱら聴くのはバッハである。この2枚のレコードのバッハが満足する音で鳴るのであれば、私にとって「オーディオはそれで十分・・・それ以上望んでも意味がない・・・」と思えるレコードでもある。

 共産圏に属していたルーマニアであるので、機材はきっと西側諸国のおさがりであったはず、それでも録音を担当していた技師の芸術的なセンスは相当に優れていたような気がする。

 その証拠として、実に耳に馴染む音である。もちろんボベスコの演奏が素晴らしのであるが、その演奏をレコードという器に収めるためには、器を作る職人のセンスが大きく影響する。

 そのセンスは、カイ・クリスチャンセンのデザインセンスと共通するものを感じる。これ見よがしな派手さはないが、細部には実に練られた美しい造形が潜み、体に自然に馴染むイージーチェアに共通するセンスが・・・

 この2枚のレコードからは、派手な演出は聴こえない。音楽に対するとても真摯な姿勢による演奏と録音は、自然と耳と心に馴染む。そしてより深いところにまで訴えかけるようでもある。




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