2020/6/21

5217:粋  

 「これはパイオニアのCDプレーヤーで型番はP-D70です。1983年の発売です。当時の定価は129,800円でした。」

 相変わらずEnsembleさん淡々と説明した。そういえば、日本製のオーディオの定価と言えば○9.800円という設定のものが多かった。59,800円とか49,800円とか・・・

 Paoさんは「何年前のCDプレーヤーだ・・・今年が2020年だから37年も前か・・・ということは俺が26歳か・・・若かったな・・・その頃は・・・」とちんぷんかんぷんなことを呟いていた。

 「そうですか・・・パイオニアでしたか・・・メカメカしさを上手く処理していて、精悍ないでたちですね・・・1983年と言えば本当にCD黎明期ですよね・・・そのためかメーカーの力の入れようが形に表れていますね・・・CDという新しい技術に対する期待感といったものが、このCDプレーヤーからはオーラとして発せられている感じですね・・・」と私はGTラックの下段に密やかに佇むCDプレーヤーを見て、感想を漏らした。

 3台の一体型CDプレーヤーと1台のプリメインアンプ、そして小型の2ウェイスピーカーという構成のEnsembleさんのシステムは確かに珍しいと言える。

 普通に考えると「3台のCDプレーヤーは要らないだろう・・・1台で十分なはず・・・」ということになるのであるが、それぞれに実に個性的なCDプレーヤーで、その存在意義をしっかりとその造形美から主張しているように感じられた。

 YBA Classic3 Σは先日Paoさんのところで聴かせていただいたが、Ensemble DirondoとPioneer P-D70は見るのも聴くのも初めてということになる。

 しばしの雑談タイムの後、私とPaoさんは3人掛けのソファに座って、そしてEnsembleさんはその後ろの小さなダイニングテーブルに付属するダイニングチェアに腰かけて、オーディオタイムとなった。

 まずは、Ensemble Dirondoから聴かせていただいた。YBA Classc3 Σ同様トップローディングタイプのCDプレーヤーである。

 Classc3 Σが左上面にCDをセットし、蓋は左右にスライドするのに対して、Dirondoは右上面にCDをセットする。蓋は前後にスライドし、その蓋には指で掴める小さな取っ手が付いている。そしてその取っ手がメーカーのロゴの形になっている。小さなところまで神経が行き届いている造形である。「さすがスイス製・・・」と妙に感心しながら見ていた。

 EnsembleのCDプレーヤーとプリメインアンプはスイス製であるが、同じスイス製のGOLDMUNDとはそのテイストが大きく異なる。GOLDMUNDがいかにもスイス製らしく「繊細にして冷徹」といった印象を受けるのに対して、Ensembleの製品からは「繊細ではあるが、人の心を和ませる要素が含まれている・・・」と感じられた。

 CDがセットされた。かかったのは女性ボーカルである。Becki Bigginsというボーカリストである。この分野、私は全く疎い。全然知らないボーカリストであった。

 ピアノトリオをバックに演奏されるジャズボーカルは、Ensembleさんのリスニングルームをたおやかに満たし、まだ夕方ではあるが、夜のジャズクラブに聴くものを連れて行ってくれた。2曲聴いた。

 続いてかかったのもジャズの女性ボーカルである。ボーカリストはStacey Kent。残念ながら全く知らない。このCDからもEnsembleさんの選曲で2曲を聴いた。

 Ensemble Dirondo、Ensemble Fuoco、そしてPawel Acoustics ELEKTRAという3ピース構成で奏でられるジャズボーカルは、実に耳に心地いいものであった。全てスイス勢で統一されているせいか、音の流れが滞りなくスムースに流れていく感じであった。

 とんでもなくSNが良いわけでもなく、とんでもなく細かな音情報が見えるように聴こえてくるわけでもないが、音楽の様相が実に自然でかつ艶めかしく聴こえてくる様は「一つの完成形だな・・これは・・・」と妙に納得しながら聴いていた。

 「すみませんね・・・・クラシックは全く聴かないんで・・・ボーカルもの、それも女性ボーカルがメインジャンルなんです・・・」とEnsembleさんは話されていた。

 「CDプレーヤーをYBAに換えてみましょか・・・」ということになり、プリメインアンプのセレクターノブが切り替えられた。
 
 そして、Classic3 Σの蓋が右にスライドされて、また別のCDがセットされた。Natalie Coleである。オーケストラをバックに華麗な音楽が流れた。このCDからも2曲が選ばれた。

 さらにもう一枚のCDがCD棚から取り出された。Sadeであった。さすがにSadeは知っていた。聴いたことのある曲が2曲かかった。

 Classic3 Σになると、音はよりカチッとした質感に変わった。メリハリがきっちりと出てくる。Sadeの軽快なリズムがスムーズである。

 同じ曲を聴き比べたわけではないので明確なことは言えないが、Classic3Σの方が表情が凛々しいと思われた。

 そして、最後はP-D70である。DirondoもClassic3 Σも決して新しいCDプレーヤーとは言えないが、P-D70と比べると2世代か3世代くらいは新しい。

 それらに比べるとP-D70は分が悪いと思えた。デジタル技術が確立されて間もない頃の製品である。「そのへんは、割り引いて聴いてあげないと・・・」と思いながら耳を傾けた。

 Ensembleさんが選んだCDは、Stanley Abernathy。メローなジャズである。トランペットが煌びやかに響いた。

 P-D70は他の2台のCDプレーヤーに比べるとさすがにレンジが狭い感じはあった。しかし、それは比べた場合のことで、このCDプレーヤーを単体で使い続けている分にはこれといった不満は出ないのかもしれない。

 「これまでに何回ぐらい修理されました?」という質問に「そうですね・・・覚えているだけで4回ですかね・・・機械も長く使い続けていると愛着のようなものが湧いてきますよね・・・あと数年で40年ですからね・・・性能面では劣っている点もあるのですが、手放せなくて・・・」とEnsembleさんは答えてくれた。

 最後にかかったCDは、Joss Stone。こちらはアメリカの都会の雰囲気である。種々雑多な人種が足早に行きかうアメリカの都会の空気を思わせる音楽である。

 やはり2曲が流れた。Pioneer P-D70は40年近く前のCDプレーヤーである。P-D70が発売された1983年といえば、時代はやがてバブル経済に突入していく「バブル前夜」である。

 そう思うと、「P-D70の表情は華やかであり、エネルギーに溢れている・・・」そんな風に見えてきた。

 空前の好景気、土地や株価の高騰・・・湯水のようにお金が使われた時代の匂いがかすかにするような気がした。

 最後にかかった曲は「A Man's World」という曲であった。ソウルフルな曲である。バックの演奏もアレンジも実に都会的で粋である。

 「粋」・・・そう「粋」である。Ensembleさんのお宅にシステムは実に「粋」である。「粋」そのもののようなオーディオシステムである・・・そんな風に感じながら、その曲を聴いていた。  




※投稿されたコメントは管理人の承認後反映されます。

コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ