2020/5/29

5193:愛国製茶  

 都電荒川線に沿って続く新目白通りを走ってから脇道にそれて、コインパーキングに車を停めた。「愛国製茶」という名前の会社のビルの傍であった。

 少し歩いた。天気は良かった。陽の当たっているところでは少し暑さを感じたが、日陰では爽やかな空気に包まれた。

 車を降りてから新目白通りに戻って少し歩くと甘泉園公園がある。新宿区立の公園で回遊式庭園である。

 「甘泉園」の名は、ここから湧く泉の水がお茶に適していたところからきたとのことである。江戸時代には大名屋敷が建っていたようで、池を抱く日本庭園は周辺とは別世界の静けさを演出している。

 Paoさんのお宅はこの甘泉園公園に面している。親から相続した建物はかなりの年代物である。右隣りは古い分譲マンション。左隣は小さな教育関連の出版社の社屋となっている。

 古い呼鈴を鳴らした。引き戸式の玄関のすりガラスの向こう側に人影が表れて、がらっとその玄関が開いた。1年ぶりに顔を見るPaoさんであった。

 Paoさんは63歳。60歳で公務員を定年退職して2年間は嘱託職員として働いたが、今は毎日が日曜日である。

 一人息子がまだ幼かった頃離婚し、数年前に同居していた母も亡くなったので、この古い家に一人暮らしである。

 「どうも、どうも・・・」と挨拶をして中に上がった。Paoさんのリスニングルームは2階にある。階段を上ってその部屋に入った。

 部屋の広さは8畳ほどである。和室であったところを洋間に直した部屋には窓が二つある。西に面した窓からは甘泉園公園の緑を望むことができる。

 新目白通りから1本入ったところにあるので、とても静かである。稀に都電荒川線の電車が通る音がかすかに聞こえた。

 Paoさんのシステムは1年前と変わりなかった。システムの要となるスピーカーはYAMAHA NS-5000である。見るからに「MADE IN JAPAN」を思わせる30cm3ウェイスピーカーは専用のスタンドの上に置かれていて、滑らかな黒い塗装が輝いていた。本格的なオーディオ製品から遠ざかっていたYAMAHAが数年前に出した高級スピーカーである。

 NS-5000を駆動するアンプは「オールド・レビンソン」と評される初期の頃のMARK LEVINSONである。プリアンプはNo.26LでパワーアンプはNo.27.5Lである。こちらもブラックフェイス。

 そして送り出しはMarantz CD34。1985年に発売されたCDプレーヤーでコンパクトな形状をしている。決して高級機というわけではないが、中古市場でも人気がある。

 このCD34は、アンプ製作などで有名な工藤氏が数度にわたる改良を加わえている。「中身はほとんど別物・・・改良に要した費用は全部で100万円を超えている・・・」とPaoさんは以前話されていた。

 そのCD34は薄茶色の鈴布団のような形状のインシュレーターの上に置かれている。あまりかっこいいとは言えないインシュレーターであるが、これも工藤氏の手によるものとのことである。

 しかし、このCD34、最近挙動がおかしくなりつつあるようであった。「工藤さんが体調を壊されていて、修理を受け付けてくれない・・・そうなると新たな候補を探さないといけないようだ・・・」と先日のPaoさんからのメールには記されていた。

 そのメールの内容を裏付けるかのように、リスニングポイントに置かれたアームチェアの右脇には1台の見慣れないCDプレーヤーが床に置かれていた。

 「どこのメーカーだ・・・見慣れないものだな・・・」とちらちらと気になるその物体に視線を送っていたが、メーカーを特定できなかった。

 「Paoさんが新たな候補としてピックアップしたCDプレーヤーであろうか・・・」そんなことを思いながら、お茶を入れてきてくれたPaoさんとしばし世間話をした。

 美味しい緑茶であった。「もしかしたらすぐ近くに本社社屋がある愛国製茶のお茶であろうか・・・」と思いながら、澄んだ色合いの緑茶を楽しんだ。




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