2020/3/29

5132:ねこ降らし  

 喫茶店「Mimizuku」のカウンター席でコーヒーを飲んでいると、扉が開いて新たな客が入ってきた。扉の上に取り付けてある鈴の音がそれを告げていた。

 時刻は午後5時半になっていた。「お久しぶりです・・・」と私に挨拶したのは「ゆみちゃん」であった。

 「あれ、いつもよりも早いね・・・」と私が答えると、「あれです・・・コロナです・・・会社から定時になったらすぐに帰るように指示があったんです・・・」と彼女は屈託のない表情で答えた。

 彼女の会社は新宿にある。中野坂上までそれほど時間がかからない。丸ノ内線に乗れば2駅で着く。会社を5時に退社すれば5時半には「Mimizuku」に到着する。

 これでこの喫茶店の中には、3名の客と女主人1名、合計4名の人間が集った。人口密度という点に関しては、それほど高いわけではない。

 彼女はアイスコーヒーとナポリタンを頼んだ。どうやら早めの夕食をここで済ませてしまう魂胆のようである。

 彼女は和歌山県出身である。この店のほど近い賃貸アパートで独り暮らしをしている。新宿のIT関連企業で働いている。

 彼女とこの店で合うのは数ケ月振りであった。近況を報告しあった。そんな会話のなか、彼女がおもむろにカバンから取り出したのはカセットテープであった。

 「出たんですよ・・・『ネコ』のアルバム・・・4枚目になります。CDでも買いましたけど、カセットでも出たんで、両方買いました・・・今回も・・・」

 彼女が見せてくれたテープを手に取った。タイトルは「ねこ降らし」であった。「ねこ降らし・・・そんな言葉ないよな・・・地方によってあるのであろうか・・・」と思ったが、そのカセットケースに添えられた絵を見ていると、造語のようであった。

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 「ねこ」は、彼女と同じ和歌山県出身のインディーズバンドである。首都圏でのライブを中心に活動を行っているとのことで、彼女はその「おっかけ」のようなことをしている。ライブがあれば必ず行っているようであった。

 インディーズレーベルから時折アルバムを出していて、今回の「ねこ降らし」はその4枚目のアルバムである。アルバムタイトルにはかならず「ねこ」が入る。ちなみに一つ前のアルバムは「ねこのコネ」であった。

 少し変わっているのは、アルバムはCD以外にも必ずカセットテープでも出すということである。

 カセットテープは完全に時代遅れの遺物であるが、そんなカセットテープが「ゆみちゃん」のような比較的若い世代にとっては珍しく興味を惹かれるものであるようで、彼女は必ずCDとカセットテープの両方を購入している。

 彼女の家には古い時代のラジカセがあるだけでなく、カセットデッキも所有している。そのカセットデッキはYAMAHA K-9である。中目黒にあるカセットテープ関連商品専門店である「Ruts」で購入したものである。

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 彼女は「K-9にカセットテープを装着して、改めてその姿を眺めていると・・・『これは猫だ・・・』って思ってしまうの・・・カセットテープが猫の顔にどうしても見えてしまう・・・猫が不意にこっちを振りむている姿に見える・・・」と話していた。




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