2019/6/11

4839:ゴール  

 山岳スプリット区間を抜けた。あと1km程走ると平坦区間に入る。しかし、その平坦区間の直前には、奥庭自然公園の駐車場を左手に見ながら上る斜度が高めの坂が待っている。

 激坂というわけでは決してないのであるが、ここまで走ってきて脚があっぷあっぷな状態であるので、とても堪える。

 そこを越えると勾配が急に緩くなるのである。その平坦区間へ繋がる難所へさしかかった時であった。

 心臓の鼓動が急変した。限界を超えた負荷をかけると稀に起こるのであるが、心臓の鼓動が突拍子もなく速いリズムを刻み始めた。サイコンには心拍数として200を超える数値が表示された。

 こうなると、体に力が入らなくなる。すっと血の気も引いていく。「まずい・・・ここで来たか・・・」と、大きく落胆した。

 とりあえず、こうなると負荷を下げるしかない。今までは負荷を下げてやり過ごしていると数分で回復していた。

 パワーを170ワットまで下げた。周囲の流れから取り残される形でずるずるとそのポジションを下げていった。

 「はやく直れ・・・」と願いながらクランクをゆっくりと回し続けた。1963年製の旧式のエンジンは、ニュートラルポジションでアクセルを吹かした時のような「空転感」からなかなか抜け出せなかった。

 時間にするとどれくらいであったであろうか・・・2分か3分ほどであったような気がする。ようやくATポジションが「D」に入った。

 異常な数値を示していたサイコンの心拍数も「170」を示した。それを確認してパワーを上げていった。

 そして平坦区間に入った。フロントのギアをアウターに入れた。サイコンのスピードが徐々に上がっていく。

 30km/hを超えて、スピードはやがて35km/hに達した。平坦エリアは2kmほど続く。周囲にトレインを探したが、丁度スピードがあうトレインは見当たらなかった。
 
 「単独で行くしかないか・・・」とクランクを回すペースをさらに上げた。スピードは40Km/hほどに達した。

 さらにがむしゃらに漕ぐとスピードは45km/hにまで上がるが、そこまで頑張るとゴール前の上り返しで大きく失速してしまう。

 今日は40km/hを超えるスピードまでは上げなかった。「残り1km」と書かれた表示板が素早く視界の左側を通りすぎた。

 この辺りから斜度は緩やかに上りに転じ始める。最後のトンネルに入った。視界の先には白い光が見えていた。その光の先はゴール手前の厳しい坂である。

 トンネルを抜けた。視界にはゴールまでまっすぐに続いている上り坂が入ってきた。その斜度はどれくらいであろうか・・・体感的には8%ほどに感じた。

 もがいた。意外にももがける脚はあった。平坦エリア直前でのエンジン不調で負荷を一時的に抑えたことと、平坦エリアで無理をし過ぎなかったことが、この最後の上り返しでプラスに働いた。

 パワーを尻上がりに上げていくとフィニッシュラインが見えてきた。ダンシングに切り替えた。クランクを回せる限りのパワーで回してゴールラインを越えた。その瞬間サイコンの小さなボタンを押してタイマーを止めた。

 ゴールしてしばし惰性で走って、止まった。左足のクリートをペダルから外して、左足を地面に着けた。サイコンの表面は降り続いた霧雨によって水滴でびっしりと覆われていた。右手でその水滴をぬぐった。タイマーの表示は「1:22:48」で止まっていた。

 11秒・・・わずか11秒であるが、自己ベストを更新できた。肺を酷使したので何度も咳き込んだ。これはいつものことである。

 咳と咳の間に2度、3度と胸の奥底から喉元に向かって嗚咽のようなものがこみ上げてきた。それを喉元でブロックした。

 サングラスを外した。もう一度サイコンに表示されているタイムを確認した。表示されているタイムは変わりがなかった。 




※投稿されたコメントは管理人の承認後反映されます。

コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ