2017/8/29

4187:ゴール  

 「残り4km」の表示看板を視界の左隅に捉えて、その前を通り過ぎた。脚の余力はほとんど底をつきかけていた。

 サイコンのタイマーはきっちりと数字を表示していたが、残念ながら正確なタイムは把握できなかった。

 スタートの計測ラインを越えた時に、うっかりしていてサイコンのスタートボタンを押し忘れたのであった。それに気づいて慌ててボタンを押したのは、計測ラインを越えてから1分以上経過してからであった。

 「1分以上は経っていたはず・・・ということは、現在のタイムはこれくらいか・・・」と推測しながら、ここまで走ってきていた。

 前半までは順調であったが、後半からペースはがくんと落ちてしまった。終盤で少し盛り返したいところである。

 森林限界を超えたので、大きな木はなくなり、周囲は素晴らし眺望が広がり始めた。天気はこれ以上ないというくらいに良好である。

 しかし、その美しい景色を楽しむ心の余裕はなかった。「ここから盛り返さないと・・・1時間25分切りは厳しい・・・」と自分に言い聞かせながらクランクを回し続けた。

 「残り4km」から「残り3km」までの1kmは、どうにか踏ん張れた。しかし、「残り3km」から「残り2Km」までの1kmは、気持ちだけが空回りして脚が回らなかった。

 「残り2km」を切ると、少しだけ復活。どうにかこうにか自分が出せる出力を維持しながら進むと、視界の左側に「乗鞍大雪渓」が見えてきた。

 「もう少し・・・もう少し・・・」と、萎えそうになる心を奮い立たせながら進んだ。夏でも雪が残っていてサマースキーが楽しめる「乗鞍大雪渓」地点では、沿道からの声援を受けて、少しパワーを貰った。

 ようやく「残り1km」の表示を確認した。道は空に向かって続く滑走路のように見える。走っていくための酸素を確保しようとして、私の肺は必死に活動していた。

 緩やかに大きく左に道は曲がっていく。「ゴールまで300m」の表示が見えた。もう残りわずかである。

 そして今度は少し道は右へ曲がる。その道が再度左に曲がり始める辺りに「ゴールまで200m」の表示があった。

 わずかばかりに残っているエネルギーを総動員してペースを上げた。あとはもう突き進むだけである。

 ゴール直前は道が大きく左に曲がる。そのカーブを駆け抜けるとすぐにゴールが見えた。ゴールラインを越えたところで、今度は忘れずにサイコンのボタンを押した。

 サイコンに表示されたタイムは「1:24:27」であった。サイコンのスタートボタンを押したのは計測開始ラインを越えてから1分以上経過していたはずなので、残念ながら1時間25分切りはかなわなかった。

 ゴールすると参加者は止まることなく前に進んでいかないといけない。「止まらないでください・・・」とスタッフは声をかけていた。

 しかし、私は道の左側、コンクリート製の縁石の向こう側に入り込んでロードバイクから降りた。そしてその縁石に座り込んだ。

 スタッフの女性が心配して声を掛けてくれた。「大丈夫ですか・・・救護の方を呼びましょうか・・・?」

 「大丈夫です・・・少し休めば・・・」と俯きながら、声を絞り出した。どのくらいそうしていただろう・・・ふらつきながら立ち上がった。




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