2017/8/28

4186:ヒルクライムレース  

 サイコンのタイマーはその数字を刻み始めた。「どれくらい経ったかな・・・1分以上は経っていたはず・・・2分は経っていないような・・・」と心の中で推測した。

 「まあ、いいや・・・」と気持ちを立て直して、負荷がなるべく一定になるようにクランクを回し続けた。

 トラブル続きのパワーメーターはどうにか正常に作動していた。220〜230ワットのパワーで走り続けていた。

 「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍」のコースは、全長20.5q、標高差1,260m、平均勾配6.1%、である。

 距離は「Mt.富士ヒルクライム」よりも短いが、平均斜度はより厳しい。そのため、チームメンバーの両大会でのタイムは、かなり近いものになることが多い。

 私の場合、「Mt.富士ヒルクライム」の方がタイムが良い。身長が181cmと高く、体重が68kgと重いので、平均斜度が緩い「Mt.富士ヒルクライム」の方が体型に合っているのであろう。

 昨年の「Mt.富士ヒルクライム」でのタイムは1時間23分42秒であった。今年は昨年よりも30秒タイムを落としたが、1時間25分は切ることができた。

 一方、昨年の「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍」でのタイムは1時間25分8秒。「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍」での自己ベストとなるタイムであったが、1時間25分を切ることはできなかった。

 サイコンのタイムは徐々にその数字を大きくしていった。同じく走行距離もゆっくりとではあるが、その数字を積み重ねていった。

 序盤は比較的順調なペースで走れていた。昨年も前半は順調であった。「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍」のコースは、前半の斜度が比較的緩い。

 そのため、前半は順調にいくことが多い。試練は斜度が上がる後半にやってくる。スタート地点から、7km地点のCP1までの平均斜度は5.3%とのこと。

 この序盤は少し抑えめに走る必要がある。しかし、斜度が緩めなのと、レース本場でアドレナリンが出ているので、いつもがんばりすぎてしまうことが多い。

 今年も少し速めのペースでCP1を通過した。CP1ではスタッフの方が飲み物を手に持って参加者に渡している。

 CP1をまずまずのペースで通過できた。ここから3kmほど上ると、道の左側に「中間点」と書かれた看板が見える。

 昨年同様今年もこの「中間点」までは順調であった。この前半と全く同じタイムで後半を走ることができれば、とても良いタイムになるのであるが、そうは問屋が決して卸さないことは、既に経験済みである。

 「中間点」からCP2までが厳しい。この区間の距離は約5km。平均斜度は7.8%まで上がる。つづら折りが始まると、時折激坂が挟まる。

 体重が重い私は、この激坂の波状攻撃が大の苦手である。今年もこの厳しい波状攻撃で脚が大幅に削られていった。

 大きなノミで木を勢いよく削っていくかのように、私の脚の余力は目に見えて削り取られていった。「うわ〜厳しい・・・スピードが全く出ない・・・」ダンシングで辛うじて越えていくが、サイコンのスピード表示は実に心許ない数字を示す。

 「きつい・・・本当にきつい・・・」

 体が軋み始める。呼吸は全く追いつかない。両脚の太腿の裏側には攣りそうな痛みが散見し始めてきた。

 「まずい、攣りそうだ・・・ここで太腿が攣ったら、それこそ地獄・・・」
 
 そんな恐怖にさらされながら、つづら折りエリアをどうにかこうにかこうにか抜けていくと、ようやくCP2が見えてきた。

 「中間点」からCP2までで、ペースはがくんと落ちた。脚の余力もすっかりとなくなり、スタートから「中間点」までの前半とは全く違った様相を見せていた。

 「これは厳しい・・・昨年よりも余力がない・・・」

 そう感じていた。CP2でも、スタッフの方が紙コップに入った飲料を参加者に手渡ししていた。私はそれを手に取る心の余裕もなく、苦悶の表情のままCP2を通過した。

 CP2を通過するとすぐに道路の左側に「残り5km」の看板があった。ここからは1kmごとに残り距離が表示される。

 この残り5kmの平均斜度は6.8%。森林限界を越えていくので木々が無くなり眺望が開けていく。そして空気が薄くなっていく。

 この5kmは本当に苦しい。昨年もとても苦しんだ。そして今年も苦しむことになった。サイコンに表示される平均パワーをどうにか上げようと心はもがくが、体と脚は極度の疲労のため反応してくれない。

 心はガラスでできているかのように、今にもひびが入ってパキッと割れてしまいそうであった。「諦めたら・・・楽になるよ・・・脚を緩められる・・・」悪魔のささやきが常に耳元で囁く。

 その囁きに、俯き加減に首を振りながら、クランクを回し続けた。ペースは上がらない。下がりそうになるペースをどうにか保つのが精一杯である。

 道の左側に「残り4km」の表示板が見えた。視界に入ってくる空は真っ青である。透き通っている。それを美しいと感じる心のゆとりは微塵もなかった。




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