2015/10/22

3324:肉じゃが  

 ホットサンドを作る器具は電熱式で、がっしりとしている。相当使い込まれたもののようで、色合いはすすけてくすんでいた。

 蓋を開けると、ホットサンドが二つ同時に焼ける構造になっている。そこに具を挟んで耳を切り取られたサンドイッチを入れて、蓋をギュッと閉める。

 するとパンの正方形の四つの辺が強く圧縮される。焼きあがるとパンの周囲は上下がしっかりとくっついていて、具を包み込んでいる。焼き上がりの色合いはこんがりとしたきつね色。食欲を促す色合いである。

 焼きあがった二つの正方形は真ん中でざくりと切り分けられる。結局四つの長方形になり、皿に綺麗に盛られて出てくる。

 ホットサンドは当然のことながら暖かい。ハム&チーズは焼きあがったばかりでは、気をつけないととろけたチーズが熱い。

 この暖かさが、なんだか嬉しい。昼は気温がそこそこあり暖かであるが、陽が落ちるとぐっと気温が下がる。今の季節、ホットサンドはピッタリであろう。

 ホットサンドを頬張り、珈琲を口に含む。そんなことを繰り返し、皿の上の四つの長方形が姿を消そうとしていた頃合いであった。

 扉が開いた。それまで店内の客は私一人だけであったが、その少し寂しげな空間にもう一人の人間が入り込んできた。

 「ゆみちゃん」であった。会社帰りであろうか、肩からかけた薄茶色のカバンのほかに、その右手には小さ目のビニール袋が・・・

 彼女は「おひさひぶりです・・・」と私に挨拶した。そして、そのスーパーのマークの付いたビニール袋をカウンターの上に置いた。

 そのビニール袋から、惣菜の入った透明なプラスチックの入れ物が出てきた。中のものはどうやら「肉じゃが」のようであった。

 「ゆみちゃん」は女主人に向かって話しかけた。「これでホットサンド、お願いします。片方だけこれで、もう一つはハムとチーズで・・・コーヒーはアイスで・・・」そして、その惣菜の入ったケースを女主人に渡した。

 私はその様子を見ていて、頭の中には「?」がぷくぷくと湧き上がってきた。これから目の前で起ころうとしていることが予測できなかった。一瞬脳内のスクリーンに「ゆみちゃん」の言葉通りの光景が映り込んだが、それを肯定する気にはなれなかったのである。

 しかし、現実に展開した光景はその一瞬予測した映像とぴったりと重なった。パンの上に肉じゃがが並べられ、もう一枚のパンで蓋をされた。耳が細く切り落とされて、その白い正方形はホットサンドを作る器具に入れられた。

 もう一つのサンドイッチとともに器具に詰め込まれた「それ」は、電熱で焼かれ、数分後には美しいきつね色になった。

 私が不思議そうな表情をしていたのであろう。「ゆみちゃん」は説明を始めた。「少し前にテレビでやっていたの・・・それを見て、試してみようと思って・・・ちょっと不思議でしょう。肉じゃがのホットサンドって・・・番組ではもっと変わったものも紹介されていて・・・たとえば、おでんとか、だし巻き卵とか、おはぎなんかもあった。」彼女の表情は子供っぽく輝いていた。

 ハム&チーズのホットサンドと同様に真ん中から二つに切り分けられた「それ」は皿に盛られた。断面からは中の具が垣間見える。それは紛れもない肉じゃがであった。

 「ゆみちゃん」の表情はそれを見て、さらに輝いた。そして、「それ」を彼女の右手が軽くつかみ取り、口元にゆっくりと持って行った。

 私の視線も、そしてカウンター越しの女主人の視線もその口元に吸いつけられた。「それ」の一部は上下の歯によって切り取られて、彼女の口のなかへ・・・そして咀嚼された。彼女はその味わいを慎重に見極めようとするかのようにゆっくりと口を動かした。

 「これってありかも・・・」「こんな風になるんだ・・・ちょっと新鮮・・・」彼女は目を少しきょろっとさせた。

 そして、「試してみますか・・・?」と私に向かって尋ねた。一瞬ためらったが、女主人からナイフを受け取って、「それ」を一口分皿の上で切り取った。




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