2015/6/23
3383:バッグ
「ゆみちゃん」は、大きなバッグを持っていた。「こんばんわ!」彼女は挨拶してカウンター席に座った。隣の椅子の上にそのバッグを置いた。
「随分大きなバッグだね・・・一泊旅行でもできそうな・・・」
「あっ、これですか・・・最近スポーツジムに行ってるんです・・・今日もMimizukuで食事してから、行くんです・・・」
「ジムか・・・ランニングマシーンで汗を流すとか・・・?」
「その時の気分で色々ですね・・・だいたいまずはウォーキングを30分ほど、あとなんていうのかな、スキーをする時にみたいな動きをするマシーンがあって、これが結構楽しいんです。それから自転車なんですけど、少し低くなっていてリクライニングチェアに座るような格好で漕ぐものがあるんですけど、それも少し・・・」
「がんばってるね・・・そのうちフルマラソン走ったりして・・・」
「それはないですね・・・でも、週に2回か3回ほど行ってるんですよ・・・近くに出来たんです、小さ目のスポーツジムが・・・24時間営業で年中無休・・・会費も安いんです。月7,000円ぐらい・・・それで、始めようと思って・・・」
「月7,000円ならいいよね・・・それで行き放題でしょう・・・毎日行けば1回200円ちょっとってことか・・・」
「毎日は無理でしょう・・・夜の9時ごろ行っても結構な人が来てるんです・・・女性もかならず何人かいて、ストイックにトレーニングしている人もいますよ・・・筋トレマシーンで。」
そんな話をしているうちに、彼女が頼んだナポリタンとアイスコーヒーがカウンターに置かれた。
彼女は29歳。今年誕生日が来ると30歳になる。もう若いとは言えない年齢ではあるが、大きめの瞳が印象的な童顔であるので、実際の年齢よりも若く見える。
SONY製のラジカセからは「ひこうき雲」のB面が流れていた。曲は最後の「ひこうき雲」に移っていた。
「ユーミン聴くんですか・・・?」
「いや、普段は聴かないけど・・・ちょっと懐かしくて・・・小学生の高学年の頃かな・・・4年生か5年生ぐらいに聴いた覚えがあって・・・」
「私、このアルバム、CDで持ってますよ・・・『雨の街を』って曲が一番好き。」
「ひこうき雲」が終わってから、私はラジカセの巻き戻しボタンを押した。「シュー・・・」という動作音を発して、カセットテープは巻き戻されていった。
CDプレーヤーと違って曲の頭出しはできない。「確か3曲目だったから、この辺かな・・・」とテープの左右のバランスを目で見ながらストップボタンを押した。
PLAYボタンを押すと「雨の街を」の途中であった。また少し巻き戻す。そして同じ動作を繰り返した。2曲目の「紙ひこうき」の終わりの方であった。
そのまま、曲を流した。そして、「雨の街を」が流れ始めた。
しばし、彼女はナポリタンを食べるためのフォークの動きを止めた。そして耳を傾けているようであった。
「この冒頭部分の歌詞が好き・・・『夜明けの雨はミルク色・・・静かな街に・・・ささやきながら降りてくる・・・妖精たちよ・・・』何かが降りてこないと書けない歌詞って感じですよね・・・このメロディーも、明らかに何かが乗り移っているというか、霊感っていったものが感じられます・・・」
彼女はそう言ってから、フォークを動かした。彼女のアイスコーヒーの入ったガラスコップにはびっしりと水滴が付いていた。今日は湿度が高い。空気中にはたくさんの水蒸気が漂っている。それらは冷たいガラスの表面に触れて本来の姿の水になる。
彼女の瞳にもその沢山の水蒸気が押し寄せたのであろうか・・・ほろりという具合に涙がこぼれた。
「随分大きなバッグだね・・・一泊旅行でもできそうな・・・」
「あっ、これですか・・・最近スポーツジムに行ってるんです・・・今日もMimizukuで食事してから、行くんです・・・」
「ジムか・・・ランニングマシーンで汗を流すとか・・・?」
「その時の気分で色々ですね・・・だいたいまずはウォーキングを30分ほど、あとなんていうのかな、スキーをする時にみたいな動きをするマシーンがあって、これが結構楽しいんです。それから自転車なんですけど、少し低くなっていてリクライニングチェアに座るような格好で漕ぐものがあるんですけど、それも少し・・・」
「がんばってるね・・・そのうちフルマラソン走ったりして・・・」
「それはないですね・・・でも、週に2回か3回ほど行ってるんですよ・・・近くに出来たんです、小さ目のスポーツジムが・・・24時間営業で年中無休・・・会費も安いんです。月7,000円ぐらい・・・それで、始めようと思って・・・」
「月7,000円ならいいよね・・・それで行き放題でしょう・・・毎日行けば1回200円ちょっとってことか・・・」
「毎日は無理でしょう・・・夜の9時ごろ行っても結構な人が来てるんです・・・女性もかならず何人かいて、ストイックにトレーニングしている人もいますよ・・・筋トレマシーンで。」
そんな話をしているうちに、彼女が頼んだナポリタンとアイスコーヒーがカウンターに置かれた。
彼女は29歳。今年誕生日が来ると30歳になる。もう若いとは言えない年齢ではあるが、大きめの瞳が印象的な童顔であるので、実際の年齢よりも若く見える。
SONY製のラジカセからは「ひこうき雲」のB面が流れていた。曲は最後の「ひこうき雲」に移っていた。
「ユーミン聴くんですか・・・?」
「いや、普段は聴かないけど・・・ちょっと懐かしくて・・・小学生の高学年の頃かな・・・4年生か5年生ぐらいに聴いた覚えがあって・・・」
「私、このアルバム、CDで持ってますよ・・・『雨の街を』って曲が一番好き。」
「ひこうき雲」が終わってから、私はラジカセの巻き戻しボタンを押した。「シュー・・・」という動作音を発して、カセットテープは巻き戻されていった。
CDプレーヤーと違って曲の頭出しはできない。「確か3曲目だったから、この辺かな・・・」とテープの左右のバランスを目で見ながらストップボタンを押した。
PLAYボタンを押すと「雨の街を」の途中であった。また少し巻き戻す。そして同じ動作を繰り返した。2曲目の「紙ひこうき」の終わりの方であった。
そのまま、曲を流した。そして、「雨の街を」が流れ始めた。
しばし、彼女はナポリタンを食べるためのフォークの動きを止めた。そして耳を傾けているようであった。
「この冒頭部分の歌詞が好き・・・『夜明けの雨はミルク色・・・静かな街に・・・ささやきながら降りてくる・・・妖精たちよ・・・』何かが降りてこないと書けない歌詞って感じですよね・・・このメロディーも、明らかに何かが乗り移っているというか、霊感っていったものが感じられます・・・」
彼女はそう言ってから、フォークを動かした。彼女のアイスコーヒーの入ったガラスコップにはびっしりと水滴が付いていた。今日は湿度が高い。空気中にはたくさんの水蒸気が漂っている。それらは冷たいガラスの表面に触れて本来の姿の水になる。
彼女の瞳にもその沢山の水蒸気が押し寄せたのであろうか・・・ほろりという具合に涙がこぼれた。