2015/5/14

3343:The Smiths  

 女主人は、電動ミルで曳いたコーヒー豆を薄茶色をしたペーパーフィルターに移した。そしてその堆積した円形の真ん中に向けてお湯を細くたらし始めた。かすかな音をたてながらお湯は粉状となったコーヒー豆の中に入り込んでいった。

 店の扉の鈴が乾いた音を「カラン・・・カラン・・・」と2度鳴らした。扉はカウンター席から見て左方向にある。そちらの方向へ視線を向けると、「ゆみちゃん」であった。

 「お久しぶりです・・・」

 彼女はそう言うと、カウンター席に座った。

 「仕事帰り・・・?」

 「そうです・・・」

 「忙しい・・・?」

 「ちょっと忙しいかな・・・」

 「あっ・・・そうだ・・・面白いものがあってね・・・これ、これ・・・」

 私はそう言うと脇に置いてある鞄の中からカセットテープを取り出した。そしてそれを彼女に渡した。

 「何ですか・・・これ・・・?随分年季が入ってますね・・・」

 彼女は私が渡したカセットテープを物珍しそうに眺めた。TDK製のカセットテープには私が大学生だった頃、レンタルレコード店で借りたものをカセットテープに録音したThe Smithsのファーストアルバムが収録されていた。

 私が大学生2年生の頃、CDが一般に出るようになった。そして数年のうちにはレコードは店頭から消え去りCDの時代となったが、大学1、2年生の頃にはレンタルレコード店がまだまだ健在であった。

 「『ねこ』って結構The Smithsの影響を受けているんじゃないかって思って・・・」

 彼女からカセットテープで聴かせてもらったインディーズバンド『ねこ』の曲からは、遠い昔聴いたThe Smithsの曲の雰囲気が連想された。

 「聴いてみる・・・?」

 「聴く・・・聴く・・・」

 「ゆみちゃん」はそう言うと、カウンター席にいつもながらに置いてあるSONY製の古いラジカセにそのカセットテープを入れた。

 PLAYボタンを押すと、カセットテープはするすると回転を始めた。A面の1曲目「REEL AROUND THE FOUNTAIN」が流れ始めた。

 ジョニー・マーのギターとモリッシーのボーカルがうねるように絡み合って流れ始めた。彼女はSONYのラジカセから流れるその音楽に真摯に耳を傾けているようであった。

 女主人が私の前にコーヒーをゆっくりと置いた。白いコーヒーカップには黒いコーヒーがなみなみと注がれていた。

 私はコーヒーカップの取っ手に人差し指をかけ、上から親指を添えた。ゆっくりと持ち上げ口元まで持って行った。

 SONY製の古いラジカセは帯域が狭い。中域中心に暖かめの音を放出していた。30年も前にカセットテープに封印された音は、コーヒーカップから立ち上る香りとともに独特な空気感を広げていた。




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