2015/5/2

3331:イグニッションキー  

 「満月うどん」を出てからAlfaromeo Mitoを東大和方向へ走らせた。蔵敷の交差点で左折して上っていく道を進むとやがて多摩湖を二つに分断する堤防道路に出る。

 そのやや幅の狭い堤防道路を渡り切った先の交差点を左折してくねくねと曲がった道を行ってから右折すると狭山湖の周囲を走っている道に出る。

 大きめのコインパーキングの手前を左に入り、脇道のような雰囲気の狭い道路を進むと、ホテルが数件その道路沿いに並んでいる。その中の1件のホテルの駐車場にMitoを滑り込ませるようにして停めた。

 Mitoのイグニッションキーを左に回してエンジンを止めた。助手席に座っている「寧々ちゃん」と目があった。キーを抜いて、シートベルトを外した。

 彼女は助手席のシートベルトをしたままであった。もう一度目があった。その瞳の色合いには何かしら問いただすようなものがあった。

 私は彼女の目を見ながらMitoのキーを彼女に渡した。そして、ドアを開けて外へ出た。車の後方を回って助手席側に移動して助手席側のドアを開けた。

 彼女はシートベルトを外して外に出た。そのドアを自分で閉めてから、右手で持っていたキーのリモコンボタンを押して施錠した。小さく「ピッ・・・ピッ・・・」と2度音がしてハザートランプも2度点滅した。

 そして、そのキーをさも大事なもののように私に返した。私はそのキーを受けとってスーツの右ポケットにするりと潜り込ませた。

 MitoのキーはAlfaromeoのグリルの形を巧みにデザインに取り入れたお洒落な造形をしている。中世の騎士が持つ盾のように見えるその形状にそって施錠解除、施錠、トランクキーの順にボタンが並んでいる。

 部屋の中に入った。スーツの上着は部屋の中のクローゼットにしまった。その際ポケットに忍ばせていたMitoのキーを取り出して、ベッドの脇にあるガラス天板のテーブルの上に置いた。

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 イグニッションキーの差し込む金属部分は折りたたんで収納できる構造になっている。Alfaromeoのマークの付いた革製のキーホルダーが取り付けられていた。

 ネクタイを外し、スーツの上着をかけたハンガーにつるした。紺色のスーツに緑のレジメンタル柄のネクタイが馴染んでいた。

 これからしばしの時間、官能の時がすぎる。互いの肌の湿り具合や温度、そして重量感を伴った体の存在そのものが不思議と自然に溶け込むように混じりあっていく。そして独特の陶酔感へと導いていく。

 指先が触れ、唇が触れ、湿って暖かな舌先が触れ合う。その触感はじわじわと染み込む水のように、体を浸していき、独特の浮遊感をもたらす。

 やがて、軽やかな羽毛の掛布団はベッドの脇からずれ落ちて床に残雪のようにこごまっていく。二つ綺麗に並んでいた枕も一つは彼方から転げ落ち、もう一つは斜めになって窪んでいた。

 Mitoのキーは微動だにせず、二人の様子を眺めていた。Alfaromeoのマークである緑色をした蛇はくねらせた体を誇示しながら隣に並ぶ十字架をめがけて赤い舌を出していた。そのマークが目に入った。

 「あれは舌なのかな・・・もしかして火を口から吹いているのか・・・それとも人の半身を飲み込んでいる状態のようにも見える・・・下半身を蛇に飲み込まれ血に染まった人間の上半身のようにも・・・」

 視線を「寧々ちゃん」に戻した。彼女は目を閉じていた。その瞼の裏側には何か見えているのであろうか・・・いつか訊いてみよう・・・と、そっと思った。




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