2015/3/27

3295:W3  

 中野坂上にあるオーディオショップ・グレンに着いたのは午後7時半ごろであった。オーディオショップ・グレンは古いビルの4階にある。そのビルの1階には喫茶店がある。店名は「Mimizuku」・・・時代に取り残されたような古い喫茶店である。

 Mimizukuの店内をガラス越しに覗いてみた。カウンター席には人影はなかった。二つある四人掛けのテーブルにも客の姿はなく、唯一やや奥まったところにある二人掛けのテーブル席に男性客の姿があった。

 私はMimizukuに寄ることはなく、階段を登った。2階には「光通商」という名前の会社が入っている。3階はずっと空いたままのようであるが、「テナント募集」の張り紙は見かけたことがない。

 ようやく4階についた。金属製のドアをノックした。少し甲高い音が響いた。「どうぞ・・・」というオーナーのいつもの返答がドア越しに聞こえてきた。

 オーナーから電話があったのは2日前。「どう、もう暇になった。また面白いスピーカーがイギリスから入ってきたよ・・・WharfedaleのW3・・・WharfedaleというとAirdaleが有名だけど、W3もWharfedaleらしく、ユニットの取り付けが独特でね・・・面白いスピーカーだよ・・・」

 仕事も一段落したので今日ショプに寄ってみた。ドアを開けていつものようにコーヒーの香りがする室内に入った。黒い革製の3人掛けのソファに陣取った。リスニングポジションから4メートルほど前には想像以上に小さな可愛いスピーカーが設置されていた。

 Wharfedale W3は1950年代に作製されたモデル。ウーファーは正面を向いているが、ミッドとツイーターが上向きに設置されている。

 Wharfedaleは音響学者のブリックス博士が設計・製作に携わっていたためか、結構斬新なユニット配置を採用していることがある。

 その斬新なユニット配置はオーディ装置が置かれた室内でいかにコンサートホールのようなサウンドステージを再生することが出来るのかという点に配慮されたもの。そのため独特の音空間が表出されるようである。

 オーナーはいつものようにマンデリンを淹れてくれた。心地よい深い香りが鼻孔をくすぐる。ソーサーに乗せられたカップになみなみと注がれたコーヒーがソファテーブルに置かれた。黒い液体の表面には緩やかな波紋が広がっていた。

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