2015/3/7

3275:猫  

 猫はまるで置物のように丸く体を凝縮させて動かなかった。その姿勢で扉のガラスから透けて見える外の通りの様子を凝視していた。

 韓国料理店で昼食をとっていたとき、店の壁際、扉に近いところに飼い猫が座っていた。その様子は愛らしく穏やかなものであった。猫の体は柔らかな存在感にふわっと包まれていて、その重量というものをあまり感じさせない出で立ちであった。

 その姿が気になり、スマホで猫の写真を撮った。「パシャッ・・・」という人工的に合成されたシャッター音がしても、猫はぴくりともしなかった。

 頼んだ「石焼きビビンバ」がスープとともにテーブルに運ばれてきた。そちらに気を取られ、焼いた石のなかの具材をたっぷりめに入れたコチュジャンとともにしつこく混ぜ合わせた。

 ふっと先ほど猫の居た場所に視線を移した。猫はそこには居なかった。「あれ・・・さっきまでは梃子でも動きそうになかったけど・・・どこに・・・」と視線を水平に少しばかし移動させてみたが、視界の領域のなかには猫の姿はなかった。

 「不思議だ・・・」と心の片隅に泡が浮かんでくるように思った瞬間であった。私の右足のふくらはぎあたりをすっとなでるように通りすぎていくものがあった。先ほどの猫であった。猫のふわふわとしたしっぽが私のふくらはぎをなでた。

 どうやら、私が石焼きビビンバを混ぜ合わせている間に猫は私が座っている椅子の下あたりに移動していたようである。

 私の足をかすめた猫は悠然としたしなりですすっと店の奥に進んでいった。どんなに耳を澄ましてもその足音は聞こえないのでは、と思えるような軽やかな足取りであった。

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 1枚のCDをペロリと呑み込んだCD34からは動作音がかすかに聞こえてきた。やがて、UNICORNの銀色の三角帽からは、JAZZの調べが悠然と響き始めた。

 駆動するアンプが是枝氏製作のモノラルアンプに変わった。それ以前は同じ是枝氏製作のステレオアンプであった。ステレオアンプの時に3度ほどこの部屋の音は聴いている。その時の漠然とした記憶との対照作業を、脳はキュルキュルとした作動音をさせてこなしていた。

 その結果はすぐさま出た。音の柔らかさや奥行き感、深さといった要素が一桁違っていた。低域方向を中心に帯域は沈み込むように広がっていた。それがけして重さには繋がらず、空気感の沈み込みとして表現されるようなところがあった。

 高域はすっと伸びているのであるが、さわやかに伸びているので嫌らしさがない。ぎとっとしたぎらつきのない感触は、昼間見た猫の滑らかな毛並みのようである。

 「アナログのような質感・・・」

 陳腐な表現でしかないが、そういう手触り感を感じさせる。聴き疲れることなく高音質を吸収できる感じである。

 「アンプさん、がんばってます・・・」的な目一杯な感じはなく、「余裕のよっちゃん」的なゆとりを感じる。

 「なるほど・・・これはGRFさんの目尻が5mmほど下がる理由も納得というものだ・・・」

 そんなことを思いながら、音楽を聴き進んだ。JAZZ関連のCDが何枚が続き、やがてクラシックのCDに移行していった。

 「ホール感がしっかりと出る・・・」

 この部屋は一般的な広さの和室・・・けっして広いとはいえない空間で感じるリアリティーのあるホール感は貴重である。恐ろしく広いもう一つのリスニングルームでは「さもありなん・・・」であるが、この一般的な広さの和室において感じることに大きな意義がある。

 8時に着いて10時半頃ごろまで、ちょうどクラシック・コンサートが行われる時間と同じほどの間、私はホールのなかに居るような感覚に浸ることができた。

 是枝氏製作のモノラルアンプで駆動されるUNICORNは、わずかな足音すらも立てないでこの和室の空間を好き勝手に3次元に移動する猫のような、物腰の柔らかく俊敏な音を奏でていた。

 「比較するのはコンサートホール・・・」その表現が過大ではニャ〜・・・イ音空間であった。

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