2014/12/27

3205:よろずねこ  

 女主人はパスタを大きめの鍋で茹でながら、ソーセージを斜め切りにし、ピーマンは輪切り、そして玉ねぎは薄切りにしていた。

 ピンク・フロイドの曲が終わったので、私は停止ボタンを押し、続いてイジェクトボタンを押してカセットテープを取り出した。それをケースに入れて元の通り細長い箱に戻した。

 「どうぞ・・・早速『ねこ』を聴いてみましょう・・・お薦めのアルバムはどれです・・・」

 私はユミちゃんに尋ねた。彼女は目をきらきらとさせた。カウンターの上に三つ並べられたカセットテープのケースを順番に眺めた。

 「どれも良いんですけど・・・やっぱりファーストかな・・・一番最初のアルバムってやっぱりメンバーの思いがぎゅっと詰まっていますよね・・・」

 女主人はフライパンにオリーブオイルとニンニクを入れて弱火で熱していた。ニンニクの良い香りがカウンターにも漂い始めていた。そしておもむろにソーセージ、玉ねぎ、ピーマンをフライパンに入れ炒め始めた。

 「これはねタイトルが面白いの『よろずねこ』っていうですけど・・・バンド名が『ねこ』でファースアルバムのタイトルが『よろずねこ』・・・ねこばっかしって感じですね・・・」

 彼女は無邪気に笑う。そして、その「よろずねこ」のカセットテープをCF2580にセットして再生ボタンを押した。ギターを中心としたソフトロック的な歌が流れ始めた。

 女主人は、ケチャップを加えた。そしてさらに塩とコショウを手際よく加え、具材に絡むようよく炒めていた。彼女の料理はきっと美味しいのであろう・・・そう思わせる手際の良さであった。普段の動きはやや散漫とも思えるものであるが、こと料理になるとその手つきと動きは俊敏ささえ感じさせるものであった。

 「ねこ」のファーストアルバムに収められていた1曲目が終わった。私はその間、ユミちゃんが話すそのバンドとの出会いやバンドのメンバー各々の特徴などについて、話を聞いていた。その話の内容に関しては、このバンドの楽曲同様私の関心をさして引くものではない。私は、嬉しそうに話すユミちゃんの瞳を時折見つめ、やや大げさに相づちを打っていた。

 女主人は茹で上がったパスタをフライパンに入れて、ケチャップと生クリーム、コンソメを加えた。火力を強くして炒め、最後にバターを入れた。バターの溶け出すかぐわしい匂いに鼻腔が少し緩んだ。

 曲は2曲目に入っていた。「ねこ」のバンド構成は、ボーカルがアコースティックギターを弾き、それにエレキギター、ベース、ドラムスが加わる。曲は全てボーカルを担当するメンバーが書いているそうである。

 「この曲は歌詞が良いんです・・・この2曲目のさびのところ・・・『素早く通り過ぎる街角の影が僕を睨み付けている』・・・ってところ、良い雰囲気出していますよね・・・」

 ユミちゃんは、このバンドの曲を聴いてもらえたのが嬉しいのか、にこやかな表情でしゃべった。

 女主人はほぼできあがったナポリタンを皿に盛り付けていた。パルメザンチーズをさっとふりかけた。湯気がかすかに立ち上っていた。

 「おまちどうさま・・・飲み物はアイスコーヒーでよかったわね・・・」

 女主人はそう言って、ユミちゃんの前にナポリタンの入ったお皿とフォークを置いた。

 「ええ・・アイスで・・・」

 ユミちゅんは小さく答えた。

 「これが夕飯なんです・・・ここのナポリタンはとっても美味しいんです・・・最近癖になってきちゃって・・・なんだか癒されるんですよね・・・」

 彼女は少しはみかむように笑った。そして、コップに氷と一緒に入っている水をゴクリと飲んだ。その水が彼女の体の中にしみわたっていくほんの少しの間、「ねこ」の曲のとある歌詞が私の耳の中で響いた。

 「いずれ分かるよ・・・君の瞳の持つ力が・・・満月の日にはきっと・・・」

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