2014/3/11

2916:LEAK Stereo60  

 我が家にやってきたTANNOY GRFを初めて目にしたのは、とあるオーディオショップの別室であった。グレーの扉の向こうに広がるその空間には窓はなく、照明が薄暗かった。

 その中に古いオーディオ機器達が整然と並べられていた。そのなかにTANNOY GRFもあった。その部屋のなかで少々不思議な経験をした。

 丸椅子に座っていくつかのスピーカーの音を聴かせてもらっていた時であった。床の黒いシミかなにかと思っていたものが、ふっと動き出した。それを認めて凝視してみると黒い小さな蜘蛛であった。

 「真冬の2月に蜘蛛って生きていけるのであろうか・・・冬眠しないのだろうか・・・」

 とっさにそう思い、その小さな昆虫の動きを目で追った。その蜘蛛は見事な跳躍力で陳列さているスピーカーのサランネットに飛び移り、一つ一つのスピーカーを横断するかのように異動していった。

 まずはWharfedale Airedale、次にTANNOY LANCASTER、そしてTANNOY GRFという具合に異動した。そのスピードは想像以上に早く、その蜘蛛の運動能力は、真冬の寒さの中においても(この部屋のエアコンは効きがすごく悪かった)素晴らしいものであった。

 店員はその蜘蛛には全く頓着せずに、「岐阜県」の話を長々と繰り返していた。彼はきっと岐阜県出身なのであろう。

 私は彼の話を耳半分で聞きながら、その蜘蛛の動きを追った。するとTANNOY GRFのユニットが透けて見える円の中心付近でその蜘蛛は忽然と消えた。

 一度瞬きをしてから、もう一度蜘蛛が消えた辺りを睨み付けた。蜘蛛はやはり居なかった。そして蜘蛛が入り込めそうな穴やネットのほつれも見当たらなかった。

 しばらく無感覚であった。すると店員の声が急にフェードインしてきた。

 「前のオーナーはLEAKのアンプでこれらのスピーカーを鳴していたんですよ・・・LEAKはマランツやマッキントッシュと比べると日本ではマイナーな存在ですが、ごく一部に熱心なファンがいるんです・・・」

 「LEAK・・・ああ、このアンプですね・・・LEAKはイギリスのメーカーですよね・・・イギリスらしい造形ですね・・・コンパクトで・・・色合いも独特ですね・・・」

 ふと我に返って、店員の言葉に応えた。

 蜘蛛が消えた地点と私が丸椅子に座っていた地点とは2メートルほどしか離れていなかった。さすがにその蜘蛛の見事な跳躍力をもってしても私の処まで跳んでくることはないはずである。

 しかし、あの黒い蜘蛛は驚異的な身体能力を有している「スーパースパイダー」だったのかもしれない。私の動体視力のはるか上を行くスピードで跳躍し、もしかしたら私の服に飛び移ったのかもしれない。

 そう思うと体がむずむずし始めた。Sakiの有名な短編「二十日鼠」の主人公セオドリクのように私の体の神経は、異物の存在をここかしこに感知し始め、気分がすっかり落ち着かなくなった。

 視線は時折蜘蛛がいそうな箇所を求めてさまよったが、一向にその存在を私の目は捕らえることが出来なかった。私は気もそぞろであったが、店員に話しかけ続けた。

 「このLEAKのアンプ、プリとパワーが二組づつありますよね・・・モノラルプリとモノラルパワーのペアで一組・・・それからこのステレオタイプのプリとパワーでもう一組。それぞれ販売価格はどれくらいになりそうですか?」

 「これらのLEAKのアンプは実はもう売却済みなんです・・・ 」

 「売却済みって・・・全部ですか?」

 「そうです、全て・・・一人の方が購入されました。LEAKのアンプのコアなマニアの方がいらっしゃいまして・・・・ベイエリアに住んでいる方なんですけど・・・」

 「そうですか・・・」

 そう言って視線を右下に移した瞬間、グレーのスーツの袖口に黒いものが動いたような気がした。右手を挙げながらくるっと内向きに手首を回転させた。袖口を確認したが何も居なかった。

 右手を右膝の上に戻しながら、「その方を紹介して下さい。LEAKのアンプを一度じっくり聴いてみたいというマニアがいるということで、連絡を取ってみてくれませんか・・・」そう店員に話した。

 オーディオショップの店員の紹介がきっかけとなり、日本においては希有なLEAKマニアのSさんのお宅を2度ほど訪問した。この2度の訪問については以前の記事に既に記した。

 結果として、Sさんのご厚意で今我が家にはLEAKのアンプがある。Sさんからお借りしてきたのである。LEAK Point One StereoとStereo60である。

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2014/3/12  17:19

投稿者:tao

GRFさんもあそこに行かれたことがあるのですか・・・
あのグレーの扉の向こう側にはちょっと非現実的なものが潜んでいたりします。
そういえば、あの別室の片隅に置いてあった背の高いスピーカーはCelloのStrad Masterだったような気がします。

2014/3/12  13:58

投稿者:GRF

昔、そのオーディオ室で聞いたのが、decolaとCelloの4ブロックのアンプとSP、そして、927のターンテーブルでした。そのすべてが、全く別の次元の音に聞こえた経験があります。


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