2013/11/22

2808:店内  

 店内は一段高くなって座敷のスペースがあり、そこに大きめの座卓が幾つか並んでいる。靴を脱いで上がり、座布団の上に座る。

 メニューは幾つかあるが、やはり定番の肉汁うどんを二人とも頼んだ。客は3人組のサラリーマンと、老夫婦が一組いた。

 注文してから10分ほどでうどんが到着した。うどんは褐色のいかにも武蔵野うどんという色合い。中太で捻じれがあり、手打ち感がしっかりと表に出ている。

 「この色合いを見るとなんだか落ち着くんだよね・・・今となっては真白なうどんを見ると、うそくさく感じるようになってしまった・・・」

 私がそう言うと彼女は、少し微笑んで答えた。

 「確かに中に小麦がぎゅっと詰まっている感じがする。うどんだけをそのまま食べたらきっと小麦の朗らかな味わいがしそう・・・」

 しっかりとしたコシはあるが、武蔵野うどんとしてはそれほどの硬さではない。中庸である。歯ごたえがあり、手打ちで丁寧に造られている優しさが感じられる。

 肉汁は鰹だしの効いた辛めの汁で、入っている豚バラ肉にもしっかりと味が沁みている。しめじなども入っており、こちらも武蔵野うどんの中庸をいく味わい。うどんとの相性も良いように感じられる。
  
 野菜の天ぷらがついてくる。内容は日替わりのようである。この日は茄子とピーマンであった。揚げたてで美味しかった。

 「なんだか、ほっとしない・・・ここのうどん・・・? ここでうどんを食べるとなんだかほっとする・・・そんなに混んでいないし、店内もこんな感じだけど・・・いかにも武蔵野うどんという感じがするんだよね・・・満月うどんほどのキレはないけど、そこがまたなんだかほっとさせる。朗らかな味わいで鄙びた風情を感じる・・・武骨で洒落っ気が無くて田舎っぽくて、でも穏やかで・・・里山の風景のような感じ・・・」

 彼女は今日は口数が少なかった。表情にも少しばかり陰りが感じられた。そのため私ばかりが話しかけるような感じになってしまった。

 「ロードバイクで走っていると、そういった風景によく出会う。山間の方に行くことが多いからね・・・畑が広がっていて、古い民家が所々に点在している。裏山には木々が生い茂り、ところどころ葉を茶色や赤に染めている・・・裏山の背景には青い空と幾つかの白い雲があって・・・Nさんとは時々走っている?」

 「ええ、時々ね・・・そんなに長い距離は走らないけど・・・自宅のあるところがもう既に鄙びたところだから、ちょっと走っても里山って感じのとこに出る。」

 彼女は暖かいお茶を口に含んだ。その表情からは生気が感じられない。心理状態が良くない方向に傾いているような印象受ける。

 「何かあった・・・?」
 
 私は声のトーンを一段階落として訊いてみた。

 彼女は大ぶりな湯のみのなかに視線を落したまま答えた。

 「死んでしまったの・・・」
                




※投稿されたコメントは管理人の承認後反映されます。

コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ