2012/3/2

2178:雅叙園  

 「5日の月曜日の予定は、どうなっていますか?実は5日の午前中に確定申告の仕事で目黒に行く予定が入っています。たまには気分を変えて、郊外ではなく、都心のほうで会いませんか?目黒雅叙園に『渡風亭』とい名前の日本料理店があるのですが、そこの『炙り寿司と稲庭蕎麦ランチ』が結構おいしいのです。景色も豪華です。仕事のほうは12時前には終わります。目黒雅叙園で12時の待ち合わせでどうですか?拝島駅まで車で行って、高田馬場経由で目黒まで約1時間です。目黒雅叙園は目黒駅から徒歩で5分程度です。」

 携帯でメールを打った。文面を何度か読み直した。しばらく、送信ボタンを押さずにぼうとしていた。すると一定の時間が経過すると、節電モードになるのか、画面がすっと暗くなった。

 あわてて、手元のキーを押した。すると、また画面は明るくなり、先ほどのメール画面に戻った。それを目で確認してから、送信ボタンを押した。

 「寧々ちゃん」は専業主婦である。昼間は特別な用事がなければ時間の都合はつくはずである。子供はもう大学生であるので、子供関連の用事もほとんどないはずである。

 「彼女はきっとOKするであろう・・・」漠然とそんな気がした。二人きりで会うのは、今度が最後になるかもしれない・・・いや、きっとそうなるであろう。

 となると、特別な時間と空間で贅沢にひとときを過ごしたい。目黒雅叙園はそういう意味では、うってつけである。その内部は、まさに別世界・・・豪華でいささかやりすぎではと思えるほどに華美な装飾を凝らした空間を有している。

 その趣向は、見るものを圧倒する。江戸文化の持つ、独特な装飾美を制限を設けずに豪勢に取り入れている。

 そこには、慎み深さはまったく入り込む余地はない。あくまで、目で見える表面的な美しさ、豪華さが全面に押し出されている。

 ここまで、やりきってしまうと、むしろさわやかですらある。「まったく下品きわまりない・・・」と評する向きもあろうが、これはこれで一つの世界として見事に完結している。

 そして、その貪欲さすら感じさせる別世界では、きっと私達も躊躇することなく、貪欲に欲望を貪ることもできるであろう。

 30分ほど経過したであろうか・・・返信が届いた。

 「目黒ですか・・・雅叙園には数年前に一度短大の時の同窓会で行ったことがあります。内装がとても豪華で特徴的でした。確か建物の中庭に滝のようなものがあって、日本庭園があったような記憶があります。ちょっと遠いですが拝島から1時間ちょっとならそれほどでもないですね・・・楽しみにしています。」

 とても、さりげない文面であった。そのさりげなさの裏側には・・・決してさらりとはしていない情念のようなものが潜んでいるのかもしれないが・・・




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