2010/11/27

1719:銀色  

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 とても穏やかな日の光であった。その日の光が木々の間を縫うように降りてくる。それらは細かく刻まれ、さらさらと流れた。けっして一塊になることはなく、幾筋にも分かれた細い滝のようであった。

 無茶庵は静かであった。平日の昼間であったからであろう。土日や祝日であったなら、もう少し賑やかな店内であったはずである。

 われわれ以外にも3組ほどの客がいたが、みな物静かに語らうだけで、その言葉ははっきりとは聴こえてくることはなく、周囲の木々に集う小鳥たちの声のほうがとおりがよかった。

 「紅葉は、春の桜の時期と違って、また違った風情がありますね・・・」私は食べ終えた後、添えてあった椛の葉を指でつまみながら言った。

 「私は最近、秋の紅葉の方が好きかな・・・」寧々ちゃんは、私が指先でくるくる回して見せた葉に目をやりながら、つぶやいた。

 「紅葉が綺麗なのは、やがてそれが枯れてしまい、枝から離れていくからかもしれませんね・・・もうじき、木々には葉はなくなり、寒い冬の空気に閉じ込められてしまうことが分かっているから、より美しく感じられるのかも・・・」

 寧々ちゃんは相変わらず詩的な表現が好きである。「終わりが近づいているから・・・」そう言いながら、こちの視線をすっと真正面から捉えた。

 その彼女の視線に、紅葉した葉に染み込む日の光に似たあでやかさを感じた。そして、その瞳の奥に控える彼女の心の真ん中に向かって言葉を繋いだ。

 「私たちも紅葉する葉のようなものかも知れませんね・・・もうすぐ枯れて枝からはなれ地面に落ちる。その終わりが近い日々のなかで赤や黄色に色づいているのかもしれません・・・枯れ切ってしまう前の一瞬の煌きなのかもしれません・・・」

 「Taoさんも、ずいぶん感傷的で詩的なことを言いますね・・・もしかしてかっては文学少年だったとか・・・・」

 「今はこんな仕事をしていますが、実は私文学部なんです・・・それも日本文学専攻・・・意外でしょう・・・」

 「えっ・・・それは珍しいですね。普通会計の仕事をしている方って、商学部か経済学部っていうイメージですけどね・・・」

 「同業者はほとんどそうです。私は変り種といったところでしょう。そうそう、この前薦めてくれた『翼はいつまでも』読みましたよ。良かったですね・・・純粋だった頃の心の色合いに一瞬戻る、と言っていた意味がよく分かりました。」

 「読まれましたか・・・心の中に潜んでいて普段はまったく姿を見せない、あの年代特有の透明感が、記憶の淵によみがえってくる感じがしますよね・・・」

 蕎麦茶が注がれた湯のみを軽く掴む彼女の左手には銀色の指輪が薬指に輝いていた。窓からは弱い午後の光が入ってきていた。その弱い光を集めるようにして、その銀色は輝いていた。



2010/11/29  2:46

投稿者:tao

pontaさん、こんばんわ!

「寧々ちゃん」シリーズはあくまでフィクションですが、ここの部分はフィクションではありません。

2010/11/28  10:03

投稿者:ponta

>実は私文学部なんです・・・それも日本文学専攻

あれ? そうでしたっけ?


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