2010/7/25

1594:陳列棚  

 西武新宿線で高田馬場までは約35分ほどで着く。そこで駅前のバス停から「早稲田正門前」行きのバスに乗り換える。今日は休日であるので、学生は少ない。バスはガラガラであった。

 「西早稲田」のバス停で降りた。日曜日は大半の商店が休みである。古本屋が数件開いていたが、どこも開店休業状態である。ぎらぎらとした太陽に焼かれたアスファルトからは熱気が盛大に湧き上がってくる。一刻も早く日陰に避難する必要がありそうである。

 バス停から歩いて数分で「甘泉園公園」にたどり着く。日本庭園風の公園をぬけると、古い家屋とひょろ長いペンシルビルが交互に連なる一帯に出る。そのうちの古い家屋の方に分類されるひとつがPaoさんのお宅である。

 Paoさんからメールが来たのは一昨日。「良いねえ・・・NO.26、とても良い具合だよ。一度聴きに着てくれないかな・・・」お誘いメールである。

 Paoさんはプリアンプをつい最近買い換えられた。従来使っていたAurexのプリアンプが故障を繰り返すようになり、やっと意を決して新しいプリアンプを迎えることにしたのである。

 PaoさんはAurexのプリアンプを20年以上愛用されてきた。しかし、そろそろ限界かと判断されたようである。実は、買い換える前にメールで相談を受けた。

 「最近の機器のことはよく分からない。Taoさんは骨董趣味に走る前は新しいものを使っていたんだろ?良いのないかな・・・」

 多少嫌味な表現ではあるが、頼まれれば嫌とは言えない性格なので、いくつかの候補を挙げた。そのなかで最後にあげたMark Levinson NO.26がPaoさんの心を捕らえたようで、都内の中古専門店で購入されたようである。

 「あれは、良い顔をしてる。男心をくすぐりまくるような顔立ちである・・・キレがあるのにまろみがある。良い女だ・・・」どうやらPaoさんはベタぼれである。

 Paoさんのリスニングルームは8畳の広さの和室である。畳の上には大きめのボードを敷いてスピーカーが設置されている。自作の強固なラックはスピーカーの間に鎮座している。そのラックの中段に、NO.26は昔からそこにあったかのように佇んでいた。

 「まずはマーラーの第4番から・・・第1楽章がいいかな・・・」緩やかなテンポで軽やかかに音楽が鳴り始める。「うっ・・・変わった・・・」とその一瞬の出足部分で感じた。

 その後サンサーンスのチェロ協奏曲、シベリウスの交響曲第2番と続いた。「なんだか、音楽が深くなったような気がしますね・・・響きが沈むというか、タメができるというか・・・」

 「そうそう、それだよ、タメ・・・」「振りかぶったのになかなか投げない・・・手がゆっくりと遅れてくる・・・くるとズバッとくる・・・」Paoさんはうれしそうである。

 「Aurexのプリアンプはどうされたんですか?」「陳列棚に収納してある・・・」そう言うとPaoさんはふすまを開けてくれた。そこには自作の棚が建て付けられていて、その棚には過去にPaoさんが使われてきたオーディオ機器が綺麗に並べられていた。

 「俺の歴史だ・・・他人には単なるガラクタだがな・・・」Paoさんはそういう人である。Aurexのプリアンプはその棚の右側一番上に置かれていた。なんだかとてもおだやかな顔つきに見えた。「ごくろうさま・・・」そう心の中でつぶやいた。




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