そろそろ、変化に乏しい連日の"Stay Home"に辟易してきた方も多いと思います。"Stay Home"と妖怪の関係での一番のエピソードは『
稲生物怪録』に記された
稲生平太郎16歳の7月1ヵ月間渡る怪異体験です。連日、妖怪や怪現象によって、家での平穏な生活を邪魔立てされ続けると言う事件です。その主な出来事をごく簡単にまとめると、以下の表の通りとなります。
このように、「
紙舞」・「
大首」・「
逆さ首」(
2017/5/29の記事参照)・「
青入道」や、主にタイに現れる、女性の生首に内臓がぶら下がった姿の「
ガスー(
ペナンガラン)」のような妖怪などに加え、多種多様ないわゆる「
ポルターガイスト現象」苛まれ続け、最後に妖怪の頭領である魔王の「
山本五郎左衛門」(
2009/5/17の記事参照)を追い払うというような、図画と共に伝えられている秀逸な妖怪譚であります。
今回はそれらの中から「
ポルターガイスト現象」と分類されるであろう事象を、『
稲生物怪録絵巻(堀田家本)』から、幾つかピックアップしてみましょう。先ずは3日、「
逆さ首」が消えた後、天井から幾つもの大小の青びょうたんが、蔓にぶら下がって湧き出てきます。平太郎は刀で斬る事も無く、正体を考えているうちに、寝入ってしまいます。
平太郎の胆の据わった性格をよく表しております。
8日、親戚が2人訪ねてきます。やがて塩俵が3俵、どこからともなく飛んできて3人の頭上をくるくると回りながら、塩を振りかけます。一般的に塩は"清めの塩"というのがあるように、厄払いの力があるはずですが、これを自由に操るとは、相手は只者ではない奴だと判りますね。
さすが、平太郎。ここでも、一人興味も無さそうに、平然としております。
18日、隣人の権八が訪ねて来たが、その後2人で居間に行ってみると、全部の畳が細い糸で天井にくくりつけられていました。下ろそうと準備していると、畳が一斉に落ちてきたという事です。
権八の「オーマイガー!」ってなってる感じがよくわかります。
22日、シュロ箒が現れて、七転八倒しながら居間を掃き清めてくれます。尚、江戸期の妖怪絵師である
鳥山石燕著の妖怪画集『
百器徒然袋』には、
付喪神の一種として紹介されている「
箒神」という妖怪がおりますが、それとは違うと思われます。
化物にも親切なところもあると、黙って見守る平太郎さんです。
ところで、こんな波乱万丈な日々の中で、何かの妖怪が化けたのかもしれませんが、16歳の
平太郎にとって、1日だけ嬉しい日がありました。20日に目の覚めるような美女が、餅菓子を届けに来たのです。さすがの
平太郎も心を惑わされそうになったようです。でも、ここをぐっと我慢できたので、「
山本五郎左衛門」によるお色気大作戦も失敗に終わりました。
思わず、にやけ顔になった平太郎。危なかったですね。

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