さて、人類の歴史は、今どこまで来ているのだろうか。
建国70周年の中華人民共和国は、世界の中国にまでのし上がった。一方、プーチンのロシアは、ソ連邦時代の勢いをなくし、今では普通の国になっている。
大きく見れば、冷戦構造は、ソ連邦の解体によって終結することなく、しばらくアメリカ一強時代が続いた後、今度は中国が東側陣営のボスになって、再び始動した、と見ることができる。
そして、ソ連邦時代の東西冷戦が、主に核兵器、原子力潜水艦などによって戦われたのに対し、今度の新冷戦は、通信網のハッキングとか、爆弾を搭載したドローンなどといった最新兵器によって戦われている、と見ることができる。
Huawei社は軍需産業であるために、その副社長が逮捕されるようになったわけである。もしも同社が米国企業の技術を違法な手段で獲得している場合、それは単なる産業スパイではなく、国防上のスパイ活動であり、俄然取り締まらなければならない対象となる。
そして、これが新冷戦であるとすれば、中国が国防上最も必要としている技術は、戦車や空母を製作するためのものなんかではなく、個人識別とか、個人の趣味嗜好を判別して、個人レベルで権力に対しての遠近感を確認することである。
個人レベルで権力との遠近感を判別し、危険分子はあらかじめ取り除く。それが中国がやろうとしている国防策であり、そのために使用されるツールがスマホである。それはGreat Firewallと呼ばれているわけであり、そこでは個々人の発信した情報をバックドアから覗くだけではなく、積極的に彼らの発信する情報を消去してしまう。
もちろん、アメリカでも同種の作戦は実行されていて、アメリカの国家安全保障局(NSA)は、通信システムのバックドアを自由自在に出入りして、海外の要人の通信内容を含む多くの極秘情報を入手していたことが知られている。
すなわち、1984年からなのかどうかは分からないが、ともかく我々はビッグ・ブラザーによって監視され、統制される時代を生きている。幸か不幸かは分からないが、このシステムは現在、Googleの支配する英語的世界と、百度の支配する中国語世界とに二分されている。
そして、その境界面に位置しているのが、日本、台湾、香港などであろう。北朝鮮と韓国については、最終的に統一を果たして、いずれにも属さない、またはいずれにも属する、特殊な地域として落ち着く可能性がある。
日本の家電メーカは、着々と中国系企業に買収されている。家電製品もまた、ネットに接続されて監視と統制のツールとして使われるものだ。自動車に関しては、中国が電気自動車開発に注力している。電気自動車は、ガソリン車に比べて圧倒的に部品点数が少ないので、低コストEV車が市場投入される、と見られている。EV車は、濡れたら漏電するので、雨の中で交通事故に会ったクルマには近付いてはならないとか、バッテリーが炎上したら、その真上にいるドライバーの命がないとか、新たな安全課題があるにもせよ、価格競争力の前には、沈黙することになるのかも知れない。そして、クルマも当然に、通信デバイスのひとつであり、クルマでいつどこに行ったかなどの情報は、すべてビッグ・ブラザーに筒抜けとなる。
我々は、新たな利便性と新たな脅威とを両方手に入れている。それは技術革新が進む社会では必然的な運命だ。戦争で何千人が死ぬとか、何十万人が死ぬというようなことは、もはやあまり起こらないのかも知れない。しかし、ひとりひとりが、誰からも知られずに、謎の交通事故死をするとか、謎の冷蔵庫爆発をするなど、ビッグ・ブラザーのやれることに不可能はないだろう。
それがいいか悪いかを論じる時代はもう過ぎている。我々はすでにその世界にいる。スマホを使わないことは、あまりにもささやか過ぎる抵抗であって、そんなことで世界を変えることはできない。ビッグ・ブラザーによって後ろ指を差されない、スキャンダル・ネタを誰にも提供させない、そういう良い人になるしかない世の中が来ている、ということだろう。

2