ソフトバンクの孫社長は、トランプタワーのロビーにドナルド・トランプ氏と一緒に現れた時に、SOFTBANKとFOXCONNのロゴが入ったプレゼン資料を報道陣に見せたのだが、そのFOXCONNが何を提案したのかが、春節前の忘年会に、鴻海の郭会長によって説明された。
それはあっと驚くような話だが、シャープの技術を使って液晶パネル工場をアメリカに建設する、というものだ。地産地消を目指すトランプ氏がその案を聞いて喜ばないわけはないし、そういう旨い話を持参する孫社長の営業勘は、さすがに一流だ。もちろん、その話をトランプ氏の耳に入れるために孫社長を利用する、という郭会長の方も、圧倒的な企業家精神を持っている。
21世紀の初頭ごろ、ペンタゴン(アメリカ国防総省)が非常な危機感を持っていたのは、高度な兵器を操作、運用するために欠くことができない部品であるディスプレー装置が、ほぼ完全に輸入品だったことである。当時のディスプレーは、そのほとんどが日本、台湾、韓国のいずれかで開発されたものだった。もちろん、これら諸国とは同盟関係にあるわけだから、国務省は平気でいられたかも知れないが、現場を担当する国防総省はそうは考えない。
それで、液晶技術とは異なる独自技術の開発をアメリカ企業にさせるために、ペンタゴンは巨額の補助金を出した。それで、補助金目当てにその独自技術の開発を手掛けるメーカがいくつもあったのだが、その技術がField Emission Display(FED)である。自分も、その製造検査装置を持って行けばアメリカでの商売になるかも知れないと思って、その開発を目指した大手のベンチャーに通ったりしたのだが、ある目標性能を満たす試作品ができるたびに、液晶はもうそれ以上のレベルを実現したよ、ということでさらなる性能向上を目指さざるを得なくなる、ということの繰り返しで、ベンチャー・キャピタルたちから巨額の資金を集めたその会社は、ついに製造工場を閉鎖し、取得した膨大な特許を管理するためだけの会社になってしまった。
そんな経緯で、自分の想定としては、米国製の兵器には、値段が高く、仕様も液晶に劣るレベルの米国製ディスプレーが取り付けられているのではないかと推測しているのだが、本当なら、値段が安く、性能の良い液晶ディスプレーを使いたいはずだろうと思う。
中国では、BOEという液晶ディスプレー・メーカが大躍進をしており、少なくとも中国製の兵器は、ディスプレーだけに限れば自信の持てる部品に困らないはずなので、すべての面で中国に負けたくないペンタゴンは、この問題を安全保障上の課題だと認識している可能性がある。
さて、そういう事情の中で、孫社長はトランプタワーを訪問したのであり、郭会長がシャープの液晶技術でMade in USAのディスプレーをつくるとすれば、これは小さくない朗報である。そして、郭会長のことだから、実際にアメリカで用地買収からはじめる場合には、相当な優遇策を州や郡、あるいはことによれば連邦政府から引き出すことになるだろう。シャープの技術者にとっても、クビを覚悟していたところ、アメリカで仕事をすることができるのであれば、御の字だろう。
世界中のビジネスマンがアメリカにやって来て事業をする、というムードをつくることは、アメリカを強くする。アメリカを再び強くする原動力は、実際には貧しい白人層なんかではなくて、孫氏や郭氏のようなビジネスマンたちである。おそらくそこで新規雇用される者たちから不法移民たちは排除されるに違いないから、白人や黒人の失業者たちが大量に雇用されることにはなるだろうが、それはまあ、彼らが反射的利益を得る、ということになるのだろうと思う。

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