トランプ大統領の登場によってアメリカは分断された、というような説があり、実際にトランプ氏の支持率が50%を切っているとか、反トランプ勢力が根強くいる、ということが言われる。それは、必ずしも捏造なのではなく、実際にそうなのであろうが、では反トランプ勢力の中身とは、一体誰なのだろうか。
これまでのところの反トランプ側の主張を自分が見渡したところでは、彼らはいわゆる「リベラル」派の人間だ、というように自分には思える。日本にもそういう「リベラル」な連中が大勢いるが、彼らのおおまかな描写は、一般的には大学を卒業していて、新聞を読み、テレビも見るし、トモダチ付き合いが良くて、居酒屋ではよくしゃべり、正義感が強く、不正を憎み、それでいて、実は何も考えていない連中だ。日本では「団塊の世代」においてそいつらは発生し、彼らは大学の授業をボイコットして、喫茶店で「朝日ジャーナル」を読み、本田勝一氏の紀行文や司馬遼太郎氏の小説を何の裏取りもせずに丸ごと信じる程度のアタマしかないくせに、日本に革命を起こす、という妄想に憑りつかれていた。
彼らの正義感や博愛思想はどういうものであるかと言うと、まず自分が社会から抑圧されていると感じているために、権力者を愛さずに、弱者や少数者たちを愛する。そして、それは思想に留まらず、弱者を助けるような行動を起こしたりする。そして、弱者から感謝されることをもって社会正義を実現した、と自画自賛する。
苦しむ者を助けることをもってよしとする、というのは、おそらく宗教のある一面に通じる。新約聖書を読むと、イエスはらい病患者を差別することもないし、病人(おそらくは精神病者)を治癒することも行っているが、彼は病人を治すためにこの世に来たのではなく、人類全体(すなわち健常者を含む人類全体が病んでいるから)を救うために来たのである。人類全体を救うということが目的であるのに、自分個人の目線から以下の(自分から見てかわいそうと思える)弱者の救済をもって安心するのでは、宗教の本質から外れたことをしていることになろう。
リベラルとは、社会を丸ごと変革せず、細かい正義感を発揮して、それで自己満足し、その結果は、社会の矛盾も間違いもそのまま見過ごし、むしろ問題点を拡大させつつ次世代に引き継ぐようなことになる運動、あるいはその担い手のことを言う。
トランプ氏が登場したことで利益を得るのは、アメリカ人であるよりは、むしろアメリカに介入されて苦境に陥っている人々であろう。シリアの「反政府勢力」とは、CIAが資金とノウハウを投入して育成した、反アサドテロリストたちのことである。アメリカ第一主義となれば、シリアのアサド政権を倒すことは優先順位が低くなるか、あるいはそんなプログラム自体が消えることを意味する。アラブ世界にアメリカが手を出さない、ということになる結果がどうなるかは、アラブ人自身が悩み、選択する問題だ。同様に、東アジアからも、トランプのアメリカは手を引こうとするだろう。そうなれば、それをどうするかは、東アジアの諸国、すなわち中国や日本が自分たちの意思で決めれば良いことになる。
マッカーサーの統治から70年も経った今、日本が「もう戦後ではない」と言っても、それを否定するアメリカ人は少ないだろう。日米同盟の堅持も、全体的な軍事力が変わらない、あるいは強化されるにしても、東アジア防衛に関しては、アメリカが主で日本が従、という現状から、日本が主でアメリカが従、という方向にシフトして行くことは間違いない。
実際のところAmerica Firstというスローガンによって、アメリカ人のうちのどの階層が最も利益を受けるのかは分からないが、世界は大きく変わって行く。それは、現状における利益の享受者がその権益を失うことを意味するし、これまで陽の当たらない場所にいた者たちが活躍できる時代が来たことを意味するだろう。
発想力の乏しいチマチマしたリベラル支持者にとっては恐怖に満ちた新時代が到来したので、トランプ政治を恐れるべきなのかも知れないが、どうせ時代はダイナミックに変わらざるを得ないのだ。変わる以上は、その波に乗るのか乗らないのか、いっそ溺れる覚悟で海に飛び込んだ方が生き残る確率が高いだろうと思う。

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