1945年 監督ビリー・ワイルダー 主演レイ・ミランド 、ジェーン・ワイマン
名匠ビリー・ワイルダーが、アルコール依存症作家に迫りくる恐怖と苦悩をリアルなタッチで描いた衝撃の人間ドラマ。
映画はアパートの外に吊り下げられた酒ビンのシーンから始まる。主人公のドンは、作家になり損ねた36才のアル中。ドンは兄と週末を田舎で過ごすために荷造りをしているが、隠れて酒を飲むスキをうかがっている。しかし、隠した酒はすぐに発見されて捨てられてしまう。偶然に10ドル札を見つけたドンは、恋人と兄を振り切って、酒を求めて街に出かけた。ここから彼の失われた週末物語が始まる。
酒のためなら平気でウソを言い、人をだまし、盗みもするし強盗もする。人間としての誇りと堕落してゆく恐怖に怯えながら、人生を転落していくさまは、実にぶざまで哀れだ。紳士がタチの悪いアル中に変貌していくのに、さほど時間はかからない。
小説家としての証でもあるタイプライターを抱えて質屋を探し、徒労に終わると、一杯の酒をせがんで物乞いまでする悲惨なシーンは圧巻だが、ラストは、アメリカ映画らしく、献身的な恋人に支えられて、かすかな希望をつなぐシーンで終わっている。
第18回アカデミー賞で、「作品賞」・「監督賞」など4部門を受賞した作品。
監督ビリー・ワイルダーの傑作は何といっても「サンセット大通り」だが、「お熱いのがお好き」「アパートの鍵貸します」などコメディーの傑作も多い。
主演のレイ・ミランドは二枚目だけが取柄の俳優と思っていたが、品のある紳士とアル中の陰影を巧みに表現して好演している。ヒッチコックの「ダイヤルMをまわせ」にも主演。おなじヒッチコックの「泥棒成金」(1955)ではグレース・ケリと共演している。

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