いい返事だけを残していなくなる
一呼吸の詩として一句は完成しているが、「なるほど」とは思ってももう一つ感興が湧かない。それだけで読み流されてしまうだろう。その原因は断念の気配がないことにある。その「断念」とはも書きたいのをガマンして、「いなくなる」まで書かないことである。では空白の下五をどうするか、実はここからが腕の見せどころ。
いい返事だけを残して金魚の尾
これで読者は「いい返事だけ残して」ひらひらと消えてゆく女と、金魚鉢の金魚と見比べて微苦笑するに違いない。しかし、これではまだ断念とはいえない。
いい返事だけを残して柿たわわ
これは「いい返事だけを残して」で一句は切れる(断念する)、そして、ひらひらと消えてゆく女から視線を自分に戻して・・まっいいか・・とでも言うように「柿たわわ」とゆるやかに秋の景色と同化してゆく。そのことによってやや屈折した作者の心境を表すことになる。
やや季節外れの句になったが、断念することによって、句が膨らむことを感じていただければ幸甚・・。

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