炎天の駅をゆっくり裏返す 楢崎進弘
生活者の視点。それは誰の場合も家族ともどもに生きるという切実な苦しみを対価として得る、苦味をともなう人生を指すのだが、作者の作品もその例外ではない。しかし、苦みや痛苦を、可笑し味に反転させる言葉のしたたかさがあり、意味にあまり執着しない。その自由さが生という負荷を背負った男の哀しみ唄として多くの共感を得る。提出の句にユーモアはないように見えるが、どこか現実が捩れてゆくような、騙し絵のような可笑しさが潜む。炎天に汗を飛び散ちらせ、黙々と巨大な駅を裏返そうする男の行為は真剣で滑稽だが、読み手には、裏返されている両手足をバタバタさせている作者が見えて悲しくなってしまうのである。

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