「おかあさんになる」と言い張る保育器は 佐藤みさ子(MANO16号)「
「保育器」を辞書的に言えば、環境への適応力が小さい未熟児に適当な環境を与える箱。湿度等は自動調節ができ,酸素濃度も自由に調節できる。観察が容易で,哺乳(ほにゅう),養護,診察,諸処置は四つの窓から手を入れて行うことができ,感染防止効果も考慮されているものだが、どれだけ完璧な機能を有していても母親の代わりなどできる筈もない、ただの道具である。
だがその道具が突然「おかあさんになる」と言いだしたら、母親であるあなたはどうする。保育器で育てられている以上「私には母親の資格はない」と引きさがるだろうか。あるいは保育器と母親は赤ん坊の親権を争ってすさまじい格闘になるだろうか。その場合、絶対的な優位性は、すでに体内に赤ん坊を抱え込んでいる保育器のほうにあるからこわい。
さあどうする、一時的であったとしても子育てのできない本当のおかあさん。
これはすべてをロボットに依存すね私たち近未来を想定すれば、ジョークや絵空事ではない。機械と人間、あるいは道具と人間の戦いはすでに始まっているのかも知れないし、映画などではかなりリアルな戦いが描かれはじめている。
この句はその予兆なのだ。

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