緑陰にいくつもうごく箒かな 岸本尚毅
土間に人畳の上に羽抜鶏
青大将実梅を分けてゆきにけり
かなりの数の梅の実が散らばっているのだろう。梅の実を干しているところかも知れない。その実と実の間をするするとすり抜けてゆく体。殆ど何も言っていないのに、実梅のごろごろつやつやしている手触り、青大将の皮膚感・・と、それぞれの質感がいきいきと迫ってくる。光と影を湛えた青い色彩の呼応。読むたびにため息のでる一句。(杉山久子)
鳥の恋ペリカン便も急ぐなり
手ぬぐいの如く大きな花菖蒲
啄木鳥や妻にも二つ膝小僧
馬鈴薯の花のかなたに恐山
日頃は目にすることはあっても、ちらっと見て通り過ぎていた岸本尚毅の俳句が、俳句伝統の持つ言葉の力か、あるいは対象を把握する根の深さか、今回は何度も読み返してみた。俳句よりも、その鑑賞に触発されて、改めで俳句の持つ言葉の凄さに気付いたのかもしれない。いずれにしろ、この俳句を触れた感触は明日になれば薄らいでいてほしいと思う。こんな川柳が書きたいと思わないように・・・。

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