広瀬ちえみ(杜人編集人)
門しめる家が逃げ出さないように
お手洗い借りるこの世の真ん中で
そこそこの幽霊になりそこいらに
広瀬ちうみの外界に対する態度は、作家の域を超えている。大げさに言えばエスパーの一種かも知れない。ごくふつうの日常の中で異世界を自然に感じ取っているらしい。「誰もいない部屋で入道雲を産む」という非現実的で美しい句も、リアルとして書かれたのではないかと思う。誤解もまた楽しめばいいのだけれど、感度の差が作中に見えるときにこそ、広瀬の句は圧倒的なパワーを持つようだ。そこまで感じてしまうものなのか、と驚く自分の感度の低さを痛感する。
マイホームの逃走への恐怖も、「この世の真ん中」で借りることへのもうしわけなさそうな感じも、死んでなお「そこそこ」を求める不思議な中流志向も、超高感度の感受力の産物にほかならない。痛切さと笑いが同時に訪れ、やがて爽快な世界が広がってゆく。(『現代川柳の精鋭たち』よりー解説・荻原裕幸)
要望がありましたので時々連載中。

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