2013/4/28

愁ふ春  詩歌

旧暦3月19日

室内庭園(「邪宗門」より)
                 北原白秋
 
晩春の室の内、
暮れなやみ、暮れなやみ、噴水の水はしたたる……
そのもとにあまりりす赤くほのめき、
やはらかにちらぼへるヘリオトロオプ。
わかき日のなまめきのそのほめき、静こころなし。

尽きせざる噴水よ……
黄なる実の熟るる草、奇異の香木、
その空にはるかなり硝子の青み、
外 光 のそのなごり、鳴ける鶯、
わかき日の薄暮のそのしらべ、静こころなし

いま、黒き天鵝絨の
にほい、ゆめ、その感触……噴水に縺れたゆたひ、
うち湿る革の函、饐ゆる褐色、
その空の暮れもかかる空の吐息……
わかき日のその夢の香の腐蝕、静こころなし。

三層の隅か、さは
腐れたる黄金の縁の中、自鳴鐘の刻み……
ものなべて悩ましさ、盲ひし少女の
あたたか匂ふかき感覚のゆめ、
わかき日のその靄に音は響く、静こころなし。

晩春の室の内、
暮れなやみ、暮れなやみ、噴水の水はしたたる……
そのもとにあまりりす赤くほのめき、
甘く、また、ちらぼひぬ、ヘリオトロオプ。
わかき日は暮るれども夢はなほ静こころなし。

返句
妖木の甘き香りに愁ふ春

※「愁う」ことも「迷う」ことも生きていることの証である。
そこから詩が生まれるのだと思う。




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