空海と密教美術展 7/20〜9/25
同様の展覧会、かなり以前にもあったよな、と思って押入れの中から古い図録を出して見たら、「弘法大師と密教美術」(1983年)。この時は、京都、東京、北海道、福岡、名古屋、岡山と巡回し、会場毎に展示が異なるので、図録の作品番号は 274を数える。
混雑しているという噂は聞いてましたが、エスカレーターまではそんなことありませんでしたね。問題は展示室内。特に、展示ケースに収められている書画の前は、人の列が動きません。ということで、サイズの大きい掛幅は、離れていても、見られるのですが、巻子類はじっくり見られなかったのが残念です。以下、印象に残った展示内容。頭の数字は、作品番号、後ろの日付は展示期間。
5 聾瞽指帰(紙本墨書、平安時代、和歌山・金剛峯寺)上巻 〜8/21
13 勤操僧正像(絹本着色、平安時代、和歌山・普門院) 〜8/21
やや前かがみの姿勢と眼、口元、手振りからは、信念のこもった何かが発せられるのを感じる。
14 真言七祖像(絹本着色、唐、京都・東寺)から「龍智」「金剛智」「不空」 〜9/4
弘法大師請来品。画面上方の祖師の名、下方の祖師の略伝は弘法大師の筆と伝えられる。龍猛、龍智、金剛智、不空、善無畏(以上インド僧)、一行、恵果(以上中国僧)に弘法大師を加えて、真言八祖という。
24 兜跋毘沙門天立像(木造、唐、京都・東寺) 全期間
唐からの請来品。平安京羅城門に安置されていたとの説あり。毘沙門天は、仏法の護法神としてとり込まれたヒンドゥー教の神々のうちの一尊。楼門に毘沙門天を安置し外敵を防ぐ風習は中国から伝来。東寺自体も、西寺とともに平安京の入り口に造立され、都を守護する意図があったとされる。長いスカートのような金鎖甲をまとっているが、腰のくびれの曲線がなかなかでしょう。
38 五大力菩薩像(紙本白描、鎌倉時代、和歌山・普賢院)から「金剛吼」「竜王吼」「無畏十力吼」 〜9/4
退色して全体的に暗い図像が多い中で巨大な白描図像はインパクト絶大。彩色がなくても迫力満点。
41 両界曼荼羅図(高雄曼荼羅)(紫綾金銀泥絵、平安時代、京都・神護寺)から「金剛界」 〜8/15
天長年間(824〜834)に制作されたと伝えられる。花鳥丸文の赤紫の綾地に金銀泥で描いている。剥落が著しいが、近づいて見上げると、金泥の描線が照明を反射して、仏像が浮かび上がる。これだけ大きいと、自重で破損しやしないかとハラハラしてしまう。
53 大日経開題(紙本墨書、平安時代、京都・醍醐寺) 〜8/21
弘法大師筆。真言八祖の一人、一行(いちぎょう、683〜727)が著した『大日経疏』の要文の抜粋。一行に30〜40字くらい細かい字でびっしり書かれている。
68 両界曼荼羅図(西院曼荼羅)(絹本着色、平安時代、京都・東寺) から「胎蔵界」 〜8/21
「胎蔵界」と「金剛界」とで技法の差が認められ、「胎蔵界」の諸尊はエキゾチックな表情が特徴的。昔、この曼荼羅図のポスター持っていたんだけど、どこへしまったかなぁ。
84 宝簡集(紙本墨書、平安〜安土桃山時代、和歌山県・金剛峯寺) から巻第七、巻第二十五 〜8/21
表紙は揚羽蝶か何かが極彩色で描かれているようだ。
86 五大虚空蔵菩薩坐像のうち、蓮華虚空蔵菩薩(木造、平安時代、京都・神護寺) 全期間
87 五大虚空蔵菩薩坐像のうち、業用虚空蔵菩薩(木造、平安時代、京都・神護寺) 全期間
衣文の装飾は少なく、表情も物静かな尊像。宝冠の装飾は豪華。
59〜66 仏像曼荼羅(木造、平安時代(839)、京都・東寺) 全期間
五菩薩のうち、金剛法菩薩坐像、金剛業菩薩坐像
五大明王のうち、降三世明王立像、大威徳明王騎牛像
梵天坐像、帝釈天騎象像、持国天立像、増長天立像
この八尊を移送するのは大変だったろうなぁ。あの阿修羅像の場合は乾漆造という素材上の問題が大きくて移送が困難を極めたそうだが。降三世明王立像にしても梵天坐像にしても複雑な立体造形ではないか!
平面の仏画で描かれている諸尊をこのような立体造形にしてしまう仏師の力量には感服する。
できることなら、八尊もお越しいただかなくてもよいから、五菩薩か五大明王、どちらかを五尊まとめてそのままの方角で配置していただきたかったなぁ。それなら本当に「仏像曼荼羅」になるのだが、こんなふうに五菩薩、五大明王をバラして配置したのでは曼荼羅とは言えまい?
曼荼羅とは、ある空間とか領域の中で、規則性、連続性をもって、配置されているものであるから、「仏像曼荼羅」と看板に掲げるなら、各尊の役割や方角も考慮して配置されるべきだろう。
とは言っても、京都まで行かずに、こんな間近で拝観できることには感謝しなくては。
東寺のサイトで立体曼荼羅が見られます。
参照サイト
東京国立博物館 東京国立博物館ニュース
東京国立博物館ニュース708号、2〜3頁に「空海と密教美術展」の記事があります。
奈良国立博物館では、「天竺へ〜三蔵法師3万キロの旅」と題して、藤田美術館所蔵の国宝「玄奘三蔵絵」全12巻、国宝「大般若経(魚養経)」387巻などを展示して、唐代の僧・玄奘三蔵を足跡をたどる展覧会が開かれているって! 行きたいねぇ〜。
メモ: 最寄り駅 JR上野駅公園口、JR鶯谷駅、メトロ銀座線・日比谷線上野駅
料金 1500円
滞在時間 約1時間


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