「ご隠居、話は前後しますが、平常展の前に見に行った、平成館の特別展を取り上げておかないといけませんね。」
陽明文庫創立70周年記念「宮廷のみやび―近衞家1000年の名宝」
会期 1/2〜2/24(一部の展示品は、1/2〜1/27、1/29〜2/24) 東京国立博物館平成館特別展示室
「近衛文麿(1891〜1945)が設立した陽明文庫が所蔵する名品が公開されているが、近衛家というのは、平安時代に摂政、関白、太政大臣を務めた藤原忠通(1097〜1164)の長男、近衛基実(1143〜1166)から始まる系統じゃ。 というわけで、陽明文庫には、平安時代後期の摂関期、院政期に関する品々から、江戸初期、寛永の三筆と言われた、近衛信尹(このえのぶただ、1565〜1614)や、江戸中期、予楽院と号した、近衛家熙(いえひろ、1667〜1736)に関する史料が保存されている
そうじゃ。」
「で、いきなり、< 藤原鎌足像 >なんですね。 でも、学校の教科書では、中臣鎌足じゃ?」
「死後、藤原姓を賜り、息子の不比等(ふひと)から藤原姓を用いるようになったそうな。」
「おや、ここから、人垣になってますねぇ。 会場へ昇ってくるエスカレーターには、5、6人しか乗っていなかったので、すいているかと思ったら、そうでもないや。 どうやら皆さん、藤原道長の日記に集まっているようですね。 この辺りは、さっと流して。
この< 源氏物語 >(鎌倉時代)は、小さい冊子ですね。縦横15、16センチくらいですかね。」
「
伝・宗尊親王< 歌合巻第六(十巻本歌合) >の文字が美しいな。
藤原師通< 後二条殿記 >は、速い筆致で書かれているように見えるな。
後柏原天皇は< 詠草 >1点のみだが、展示替えで後期にも1点出るので、気をつけておきたい書跡だ。」
「ご隠居、この< 天子御影 >というのは、鳥羽天皇から始まってますね。 鳥羽天皇だけ向きが違って、2人目の崇徳天皇から、鳥羽天皇の方を向いてますね。」
「藤原忠通が摂政、関白を務めていたのが、その鳥羽、崇徳、近衛、後白河天皇のときなのだな。」
「ご隠居、『かんべんじょう』てのは何なんでしょうね。」
「勘返状というのは、往復書簡なのだそうだ。 送られて来た手紙の行間に返事を書いて送り返すんだそうだ。 紙が貴重品だったことと、その場ですぐ返事が書ける内容だったりしたときに、そうしたんじゃないだろか。
近衛政家・一条兼良< 勘返状 >は、料紙も美しいし、文字もかなも漢字のくずしも美しいと思うぞ。」
「やっと屏風が出てきましたね。 ここまで来ると人もまばらになって見やすくなってきました。
近衛信伊< 源氏物語和歌色紙貼交屏風 >(六曲一双)、色紙は近衛信伊ですが、下絵は誰なんでしょうね。 右隻には、堤越しに菊花が見える様を描いて、左隻には、雲と波頭を描いてますが、琳派や土佐派の雰囲気がありませんかね?
近衛信伊< 和歌六義屏風 >(六曲一双)は、二扇に一首を大書という、書の屏風ですか!」
「
後陽成天皇・近衛前久・近衛信伊< 一座之詩歌 >(一巻)は、料紙に金線描の草花、銀泥の冨士山、線描の雲や波が描かれているし、
近衛信伊< 和漢色紙帖 >も金銀泥の下絵が美しいぞ。」
「ご隠居、
近衛信伊< 柿本人麻呂像 >は、脱力系ですね。 も一つ、後水尾天皇賛・聖護院道晃法親王画< 柿本人麻呂像 >もありますが、柿本人麻呂って、万葉集の人でしたよね?」
「柿本人麻呂は、『万葉集』第一の歌人といわれ、平安時代後期には、その柿本人麻呂を祭って和歌を捧げる『人麻呂影供』という祭事も流行ったそうじゃ。」
「後水尾天皇(在位:1611〜1629)筆の< 手鑑 >は、散らし書きにもいろいろあるようで、会期中、頁替えするんですね。」
「
近衛基熙(にすいに熙の字)賛・狩野常信画< 瀟湘八景図色紙帖 >(一帖)は、八景図と色紙を貼り合わせたもので、細密な金泥下絵が美しい。」
「ご隠居、この
近衛家熙編< 大手鑑 上 >は、家熙さんが聖武天皇や後鳥羽天皇の書跡を集めたコレクションなんですね。 聖武天皇といったら、家熙さんの時代で既に千年前の人物ですから、よく保管しておいたもんだなあ。」
「集めるだけじゃなくて、臨書もやっておったのが、< 予楽院臨書巻 >じゃ。 空海の『風信帖』、藤原佐理の『離洛帖』、小野道風の書状などを臨書しているのが見られる。 後期には、畠山記念館所蔵の『離洛帖』が展示予定らしい。」
「ご隠居、ショップの前へ出ましたから、ここまでが前半ですね。」
「第2会場の最初のほうは、表具を楽しむ趣向かな? 伝・坊門局< 消息 >は、中廻しに中国・清代の草花人物文の刺繍裂(きれ)を使っているなど、明、清の刺繍を表具に用いているらしい。」
「ご隠居、家熙さんという人は、書を集めたり、書いたりしただけじゃなくて、絵のほうも描いていたんですね。 この< 鍾き図 >は、家熙さん10歳の時だって! こっちの< 萩に月図 >は、絵と和歌賛の両方ともご自分で描いたって。」
「こちらの植物図譜は、近衛家熙が趣味で書画を書き写すだけでなく、博物学の才能も持っていたことを示しておるじゃろ。」
「< 花木真写 >(三巻)と< 花木真写貼交屏風 >(一隻)というんですね。 枯れ葉や虫食いまで描いてますね。 また、きれいな絵巻物がでてきましたよ。」
「< 春日権現霊験記絵巻 >(二十巻のうち、巻第三・四・五)は、近衛家熙が詞書を、お抱え絵師だった
渡辺始興(1683〜1755)が絵を、模写したものだそうだ。 原本は、鎌倉時代に書かれた< 春日権現験記絵 >で、絵は高階隆兼、詞書は鷹司基忠父子、現在は、宮内庁三の丸尚蔵館の所蔵ということじゃな。 この展示は、前期と後期で3巻ずつの予定だそうだ。」
「次のコーナーは、人形ですね。 それから、また、布が出てきましたよ。 ペルシャのモールとか、フランスの更紗とか、こっちには、景徳鎮の白磁と、舶来品ばかりだね。
みやびなんていうから、和物ばかりかと思ったら、舶来品にも目が無かったんですね。」
「< 池坊専好立花図巻 >(一巻)を描いた
池坊専好(1570〜1658)は、後水尾天皇に仕え、立花を指導した人だそうじゃ。 ここには、絵とともに日付、場所、花材が記されている。」
「ご隠居、これが
酒井抱一(1761〜1829)< 四季花鳥図屏風 >(六曲一双)ですね。 右から、春夏秋冬と移っていくんですね? 春は雲雀、夏は鷺などの水辺の鳥、秋は雉と鴫、冬に鶯かな。 植物を見せるために、積雪を、薄衣のように透けて見えるように描いてますね。 植物を描いた上から金銀箔を散らしているから、豪奢だねぇ。」
「こちらの書跡のコーナーは、宮内庁三の丸尚蔵館の所蔵品から藤原俊成や藤原定家の書跡を展示しているが、展示替えがあるので、もう一度、来てみたいぞ。 前期では、
伝・藤原行成< 安宅切(和漢朗詠集断簡) >の料紙が美麗じゃ。 伝・賀知章< 草書孝経巻 >(一巻)という、中国・唐時代の書籍もあるじゅないか。
そして再び陽明文庫の所蔵品から
伝・藤原行成< 倭漢抄下巻 >(二巻)の料紙は、平安時代というに、色変わりの唐紙という凝りよう。
近衛家熙編< 大手鑑 下 >は、紀貫之、藤原佐理、藤原行成らの書跡を集めている。 前半に出てきた< 大手鑑 上 >は、天皇家の人々だったな。
このコーナーも前後期展示替えになるものがあるが、そのなかには、
藤原俊成< 日野切(千載和歌集断簡) >(一幅)、
伝・藤原顕輔< 鶉切(古今和歌集断簡) >(一幅)、 伏見天皇< 和歌巻 >(一巻)
などがある。」
「ご隠居、これは見応えありますね、ここだけで2時間はかかりますよ。 で、来月も見に来るんですか?」
参照サイト
東京国立博物館
メモ: 最寄り駅 JR上野駅公園口、JR鶯谷駅、メトロ銀座線上野駅7番出口で「しのばず口」、9番出口で「パンダ橋」)
料金 1,400円、ぐるっとパス(100円割引券)
滞在時間 13:00〜15:00

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