元日から非正規労働だった。で、明けの2日、原作を読み切るのももどかしく『K-20/怪人二十面相・伝』を見に行く。初めて行ったイオンモールの3階にあるシネマコンプレックス――まるで消費がテーマパークのように祝祭化され、はなやかだがウソラ寒い「消費者は神様」「消費は善」の価値観を押し付けるバベルの塔の一画のようだった。
そして、映画でも怪人二十面相が狙うターゲットは、ブリューゲルの描いた「バベルの塔」。どうやら、その絵には、フランク・ステラ(実在したマッド・サイエンシスト)ならぬテスラ装置という兵器にもなるエネルギー伝送装置の秘密 が隠されているらしい。
と、ストリーを追うのは本題ではない。この作品は「if」、つまり米英連合軍側と帝国陸海軍が平和条約を締結し、大平洋戦争が回避されたという「もし」の上に成り立った「1949年の帝都」が舞台になっている。
つまり、東京空襲はなく明治大正以来の消失していない古い街並がおおいつくす「帝都」が舞台であり、そこに江戸川乱歩の「怪人二十面相」と「明智小五郎と少年探偵団」が登場し、そのお決まりの対決にあらたなキャラクターであるサーカス芸人遠藤平吉(金城武)が加わる。
『ALL WAYS/三丁目の夕日』の制作プロダクションとスタッフが作り上げた「帝都」は、『ブレードランナー』の都市と上海と昭和30年代の東京がゴチャまぜになったようなリアルさに欠けたものだが、この映画でリアルな舞台がただひとつある。それは、帝都の中に押し込められた最底辺の「貧民」が住むスラムのような貧民街だ。
かって明治時代に帝都東京に四大スラム街が形成された。鮫ケ橋、万年町、新網町、新宿南町である。それを当時ジャーナリスト精神で果敢にルポルタージュしたものが『日本の下層社会』(横山源之助)、『最暗黒の東京』(松原岩五郎)などである。それらの迫真のルポルタージュが映画の参考にされたかどうか、わからぬが、「帝都の貧困」がスクリーンの上に映写されるそこは、マイカーがぎっしりと駐車したまるで幻影のような消費社会の郊外型テーマパークであるイオンモールだったのだ。
正月中も、貧困ネットワークによる炊き出し、住宅支援、相談などの窓口を開いて現代の「帝都」のど真ん中、日比谷公園で支援活動が行われている。「帝都の貧困」は映画の中だけの話ではない。
『K-20/怪人二十面相・伝』(脚本・監督)佐藤嗣麻子 (出演)金城武、松たか子、鹿賀丈史、仲村トオル 2008年 日本映画(東宝):評価(★★★)

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