エラの「Summertime」を最初に聞いたのはどこでだったか? どこで聞いたかは覚えていないが(ジャズ喫茶であることは確かだ)、アルバムは覚えている。「マック・ザ・ナイフ/エラ・イン・ベルリン」というライブ実況盤で、有名なアルバムだ。どこで最初に聞いたかは覚えていないが、そのアルバムをボクは持っている。「きーよ」が閉店する時に、もらったのだ。もらった時点ですでにボロボロだったが、それから40年近くの時が経ってジャケットも壊れそうである。だから針音もひどいし、うっすらとカビのようなものも生えている。これは、「きーよ」の思い出の品、メモリアルグッズとして持っている。
「きーよ」というジャズ喫茶には2期ある。新宿の厚生年金会館前にあった時期と、職安通りから歌舞伎町側に入った時期だ。最初の時代には、白石かずこや堀内誠一が通っている。死んだエディトラル・デザイナーだった堀内なぞ(「anan」のエディトラル・デザイナーとして一世を風靡した)、その集大成的な作品集にわざわざ「きーよ」の店内写真を使ったもんだ。
「きーよ」第1期の武勇談は直接白石かずこの本にあたって欲しい。『黒い羊の物語』に詳しく書いてある。ちなみに、詩人白石かずこのただならぬ感性はこの半自叙伝のようなエッセイに「黒い羊」と名付けているところにもある。従順な神の子羊は、白い羊毛の群れの中にあってただひとり「黒い」のだ。それは、とりもなおさず白石かずこ自身のことである。
そして、白石かずこ自身も「ブラック・ソウル」を持っているらしいのだ。一時、黒人が恋人だったという意味だけではない(山田詠美の先輩格?)。彼女は、どれだけ詳しいのかは分からぬが、ジャズにトチ狂ったクチらしい。いや、ジャズ喫茶で不良主婦をしていたらしい(それとももう別れた後だったのか)。
白石かずこが子持ちの身でジャズ喫茶通いをしだすのは、30歳をすぎてからのことらしく、そう、だれしも希望を捨ててはいけないのだ。
(写真:「きーよ」でもらったボロボロの「エラ・イン・ベルリン」。ボクには宝物です。)
(もしかしたら続く)

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