昔、ちょくちょく見た悪夢が脳裏をフラッシュバックした。
僕はリングに上がってる。
闇に浮かぶライトに照らされたリング。
夜の海みたいに暗く、蠢く客席。
相手は鈍重なファイター。
(大抵は仲の良くなかった同級生の顔やったりするんやけど…)
リーチも短く、スピードも遅い。
相手の放つ短く単調なパンチをステップを踏んで避ける。
逆に僕のジャブは面白いようにヒットする。
角度を変えて何発も何発も…。
頭を下げ、上体を揺らしながら前進してくる。
右のストレートはヒットするけど、頭蓋骨に当たる。
「顎に当てたいな」
左でジャブからフック、アッパーをダブル、トリプルと何度も連打する。
アッパーで顎が跳ね上がるところに右のストレートを叩き込む。
手応えはあるんやけど、相手は倒れない。
相も変わらず上体を揺らしながら前に出てくる。
ポイントでは圧倒してる。
だけど、相手の頭蓋骨を殴り続けたナックルに嫌な痛みが出始めた。
距離を詰めると、レフトフックがボディに飛んでくる。
遅いけど、距離が近いので肘でブロックする。
だけど、何となく嫌な重いダメージを感じる。
早く倒してまいたいけど、倒れない。
腫れた瞼から覗く死んだ魚みたいな目が不気味だ。
「え? あと何ラウンドあんのん?」
ってとこで目が覚める。
嫌な夢やった。
格闘技において、打撃は偶然に左右される。
頸を絞めれば相手は落ちる。
関節を極めれば脱臼する。
だけど、打撃は「当たり所」に左右される。
いくら自分が優位でも、確実に倒せるとは限らない。
そんなかつての悪夢が頭をよぎったんやけど…
杞憂に終わった。
このバンタムのチャンプは、見事に8ラウンドで試合を終わらせた。
彼のボクシングスタイルで好きな点は、「理詰め」だ。
1ラウンドから倒すまで「ストーリー」を描いている。
いくつもの展開を作り、臨機応変にその展開を変化させる。
「お! 今度はそう来たか」って、ワクワクする。
無類のタフネスを見せた挑戦者。
「あれ? 思ってたのと違うな」って感覚もあっただろうけどね。
いやいや、今回も楽しませてもろたよ。

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