「
大人のための催眠術」には他にもたくさんの傑作がある。また、さらに別サイトにまで足を運べば、かつて私が掲示板でちょこっとその魅力について触れたT-kunさん、こっそりメールで感想を送ったかぐらさん・Panyanさん・一樹さんをはじめとして、魅力的なお話やその作者を上げだしたらキリがない。
しかし今は、私がお話を書く直接のきっかけとなった「
大人のための催眠術」所蔵作品に話を絞ろう。そして、どうしてもはずせないこの人に感想を書くことで、今回の一連の記事を締めくくろうと思う。
もちろん「大人のための催眠術」の創作ルームが、TMさん以外はアイウエオ順(五十音順)で並んでいることはわかっている。
わかっていて、それでもこの人の上に私の名前があることが、どうにも恐れ多いというか、申し訳ないというか、そういう気持ちでいっぱいなのだ。
そう、つい最近、なんと四年ぶりの新作「メイド服の催眠ドール」がアップされたばかりの、びーろくさんである。
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☆びーろく氏の作品
■大人のための催眠術
・課外授業
・放課後の催眠ドール
・休日の催眠ドール
・昼休みの催眠ドール
・メイド服の催眠ドール
■魔法の瞳
・子猫ちゃん狂騒曲
・催眠天使チャーミィミント
・魔女のマリオネット
他、
ひっぱろ(催眠系パロディ専門サイト)に二次創作ものなど
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びーろくさんは容赦のない人だ。
そして、真っ正直な人でもある。
――容赦がないのは、物語の進行に関して。
いるものといらないものが見事にきっぱり取捨選択され、描かれるのは必要不可欠なものだけだ。舞台背景、キャラクターの設定、そしてシチュエーション。書かれたことばはすべて「催眠術で女性を意のままに操る」というテーマに過不足なく奉仕するためだけに存在している。
――正直なのは、自分の欲望に対して。
それが現実に起きえないことをよく知った上で、びーろくさんは男の妄想を軽々と肯定してみせる。あれだけの陵辱を描きながら、その作品が暗い印象をもたらさないのは、この思いきりのよさにあるだろう。
これはできるようで実はなかなかできることではない。
エロ小説は、読者に性的な興奮を与えるためだけに存在する。そんなアタリマエのことが、たとえばこの私にはなかなか貫徹できない。しかし、びーろくさんの提出するテキストは、見事にこの一点を目指すのだ。
前置きはいらない。
すべてがサビ、最初から最後までクライマックス。
もちろん緩急はあるし、流れに沿った手順、起承転結も分かりやすく描かれている。しかし、一度走り出したら止まらない。話は最後まで一気に進んでいく。
こんなふうに書くと未読の方は、スピードと落下の快感を楽しむジェットコースターのような物語を想像されるかもしれない。
だが、さにあらず。
「催眠で女性を意のままに操ることができたら」やってみたい様々なシチュエーションがこれでもかと繰り出され、魅力的なキャラクターは暗示のことばひとつで、まるで着替えでもするようにくるくるとその表情を変える。
テーマ・パークのアトラクションの多くは、観客を乗り物に乗せて、次々と現われるシーンの前へと誘う。目の前を通りすぎるステージこそがメインのプログラムであり、それなりに意匠が凝らされていたとしても、乗り物はシーンからシーンへと運ぶ移動手段にすぎない。
同じように、びーろくさんのストーリーは、次々と現われるエロいシチュエーションへ私たちを運んでいく。
そう考えれば、確かに畳みかけるように繰り返される暗示のことばも、一見いきあたりばったりに思いつきで書かれているようにさえ見える。
だが、そうではないのだ。
ライトな語り口に騙されてはいけない。移り変わるシーンを移動しながら、めくるめくエロ・シチュエーションを走り抜ける『びーろくワールド』のトロッコのボディには、常に変わらぬ「催眠」の二文字がくっきりと刻まれている。
ここで、実はある逆転が起こる。
テーマ・パークのアトラクションが、ただの見せ物小屋ではないように、『びーろくワールド』のアトラクションもまた、エロ・シチュ展覧会ではない。
どんなエロいシチュエーションも、どんなに魅力的な女性キャラも、「催眠」がなければ始まらない。「催眠をかける」という行為があって初めて成立するインタラクティブなエロスは、やがて目的と手段をいつの間にか逆転させてしまうのだ。
――ヒロインにエロいことをさせてみたい。
それが当初の目的だった筈だった。
しかし、催眠を用いてエロを追求すればするほど、当初は手段だった筈の催眠がクローズアップされてくる。
その証拠に最新作「メイド服の催眠ドール」では、すでにキーワードも埋め込まれ、陵辱の限りをつくした筈のヒロイン相手に、あえて、一からゆっくりと催眠術をかけ直すのだ。
恐らく、びーろくさんにはよくわかっていることだろう。
エロ小説を読む行為は、ただ単に目の前を通り過ぎるアトラクションを眺めるのではなく、移動していく体感を伴った快楽だ。
びーろくさんの作品では、それは特にヒロインの設定と、催眠時の変貌という落差に顕著に現われる。
催眠でキャラの性格や行動を変化させることを主眼にした「催眠ドール」シリーズは、最新作ではまさにそのものズバリの「メイド服」へ辿り着く。
もう一度タイトルを確認して欲しい。「メイドの催眠ドール」ではない。飽くまで「メイド『服』の催眠ドール」である。
もちろん、その象徴的な衣装が、読者のツボを意識した意匠であることはいうまでもない。だが、そもそも最初から「催眠ドール」は「大人のための『着せ替え人形』遊び」として設定されていたのではなかったか。
当然のこと、催眠を用いた「着せ替え」は、衣装にとどまらず、キャラクターの意識までをその対象にする。「メイド服の催眠ドール」ではその「着せ替え」の複雑さとバリエーションがさらに増し、目まぐるしく変化していく。
そして、そこには何がしかの飢えが見え隠れする。
――これも喰った、あれも喰った。しかし、まだ他にも美味いものがあるはずだ。
そのような飢えである。
ただ、あえて形容矛盾を承知でいうなら、実はその飢えは「歪んでいるがひどく真っ直ぐな」思いを密かに隠しているように思われてならない。
たった一人のヒロインを犯しても犯してもまだ足りず、さらなる愛着を感じながら暗示を施す主人公に、(それがどのような手段であろうと)一途な思いを見るのは私だけではないだろう。
もちろん、フィクションはフィクション。だからこそ、現実には許される筈のない妄想も、歪んだ愛も、そこでは等しくはかない「思い」に過ぎない。
――年上の、あるいはマジメで優等生の、そして美しい女性を催眠でいいなりにできたら……。
そんな(恐らく多くの男が持つであろう)願望を、びーろくさんはあっという間に形にして見せる。
躊躇いなく、容赦なく、真っ正直に。
だから、――やはりここでも白状しなければならない。
びーろくさんいうところのクールビューティーが、そのまま拙作「秘密の箱」にも踏襲されている。
恐れを知らずに、びーろくさんに捧げる一篇。(新・世界一短い催眠エロ小説)
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彼女の前で、僕は最後の数を数え始めた。
「3、2、1、はい!」
「あっ!」
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師匠、こんなもんでいかがでしょう?(笑)

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