やま「大家さん、帰ぇったよ」
大家「おやお帰り。冬の津軽、寒かったろう?」
やま「それがね、津軽まで暖冬だよ。土地の人が“ひぇん”だって言ってた」
大家「ひぇん? なんだいそりゃあ」
やま「雪は降らねえし空は青ぇし“変”だってんだ。青森じゃねえみてえだって」
大家「次の夏が寒くなると心配だって言ってなかったかい?」
やま「ハチが飛ばねえと困るんだって」
大家「で、3日とも雪が降らなかったんかい?」
やま「いえね、3日目の朝雪がぱあっと降り出してね。八甲田の樹氷見物に絶好だって大喜びした」
大家「おあつらえってわけだ。で、どうだったい?」
やま「どうもこうもねえ、降りすぎだよ。頂上に行くケーブルカーの駅に行ったらね、駅長さんが駆けだしてきて『上が猛吹雪だから運休だ!』・・・」
大家「へえ、馬鹿陽気一転して猛吹雪、異常気象だな」
やま「絵に描いたようだよ」
大家「でも、八甲田でやっと津軽の冬が味わえたわけだ」
やま「たっぷりよ。感動ってやつがあった。ありすぎたね」
大家「感動って言うより災難ってえ感じだな」
やま「でもね、苦あれば楽ありだ」
大家「へえ、なにがあったんだい?」
やま「津軽といえばこれだよ」
大家「一番下はなんだい?」
やま「いえね、二人足してもあっしより三十歳も若え娘っ子が『じっちゃん、津軽の酒っこ、うめかい? ぴーす!』って、まあ応援団だ」
大家「賑やかでよかったじゃないか。またいろいろ聞かせておくれよ、みちのくの話を」
やま「いろいろあるよ『未知の苦』っていうくれえだから」
大家「おあとがよろしいようで」

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