あわただしい世の中で、こんな
悠長な時の流れもある。
20年度卒園児の卒園記念品として、園が望むものをいただけることになった。さっそく検討した結果
「こども用の木製ベンチ」に決定した。ここまでは順調だった。そのあと、時の流れが変わったのである。
老園長は
「手づくり」にこだわった。あるところで見た
「加子母村森林組合」の手づくり家具のすばらしさを、おぼろげな記憶によってたぐり寄せようとした。たどりついた。
さて注文である。こども用ベンチのカタログや製作記録は無い。よせばいいのに、老園長が
「設計」をすることになった。設計といっても、画用紙にフリーハンドで描くだけ、つまり
「お絵かき」だ。これに少し時間がかかった。
自分が手間取ったことを棚に上げて、「設計図」を渡せばすぐに製作開始と老園長は期待した。これがまちがいだった。
おぼろげな「絵」からすぐに製作というわけには行かないのだ、プロは。部品の寸法が書き込んであるわけではない。強度を考慮してあるわけでもない。
「製作図面」が必要なのだ。また時間が経過していく。
老園長は
「まんだかね」と催促した。
「まあちょこっと待ってちょう」と返事が来た。
そして、長い長い時間が過ぎていった。
それから、もう注文したことも忘れかけていたある日、突然製品が届いた。みんな驚いた。保育士なら誰もがあこがれる、まったくの
手づくりの、
天然素材の・・・これはまさに
「工芸品」である!
背に黒々と
「沖ノ橋保育園平成20年度卒園記念」の刻印、サンルームに
ヒノキの香りが広がる。良かったなあ、みんな。
と、ここで特筆すべきは、届けてくれた森林組合の職員さんのお人柄。
「遅くなってどうも」といいながら、
ごく当たり前そうで自然な感じで、悠然としておられる。さすが
50年先の木の成長を見守りながら生計を営む森の人・・・
保育園では、時にこういう風に時間が流れなければいけないのだ。
ただし、世間的な感覚としてはすいぶん遅れてしまった「卒園記念品」の実現・・・
保護者会のみなさま、のちほど公式におわびをいたしますが、
ほんとうに申し訳ありませんでした。

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