やま「大家さん、やっぱりあれだね、人には生まれ持った星ってものがあるんだね」
大家「おや、朝から神妙な顔して、どうしたい、ゆうべの食い物が悪かったかい?」
やま「そうじゃあねえよ。
近ごろどうも、限界ってんですかい? そいつを感じてね。
なにかこう、なにやっても同じところをぐるぐる回ってるみてえで・・・
どうも抜けきれねえ・・・あっしの人生こんなもんかって思うんすよ」
大家「そりゃあまあ、あべさんとかわたなべさんとかおぼかたさんとか、
自分の力に無限を感じていなさるような人もあるけど、
人間ってものは大方やまさんみたいに、お与えの軌道を回ってるんだろうな」
やま「やっぱりね」
大家「で、やまさんのはどんな星なんだい? 火星かい、金星かい?」
やま「そんな輝かしいもんじゃないね。肉眼じゃ見えねえ小惑星ってとこだな」
大家「なんでまたそう思うようになったんだい?食い物のせいじゃないとすれば」
やま「あるラジオ番組を聴いてその感想を書いてくれって頼まれてね」
大家「へえ、やまさんにそんなことを頼んだ人があるんかい?」
やま「不思議だろ? で、せっかく頼んでくれたのに大したことが書けねえ」
大家「どんな番組だったんだい?」
やま「27年間の獄中生活にもくじけず人種差別をぶっ壊したってえ、
あのマンデラさんの話だ」
大家「そりゃあ大変だ、やまさんにゃあ荷が重い。
で、何を書いたんだい?」
やま「まず書き出しからして平凡でね。
“私たちは戦中生まれ戦後育ち、平和のありがたさを背負って生まれた
ような世代です。マンデラさんには比ぶべくもありませんが、我らが
親の世代は戦時にあって、人間の尊厳を疑わざるを得ないような体験
も強いられてきたことでしょう。だからこそ子どもたちが希望を失う
ことがないようにと、まさにマンデラ氏が望まれたような社会を築く
ための努力を続けてきたのだと思います”」
大家「それからどうした?」
やま「マンデラさんは笑顔が大切だ、しかもすべての人が『笑顔のスクラム』を
組まなきゃいけねえんだと言っていなさる。それに共感したあっしはね、
“振り返って私たちを取り巻く今を見てみるとき、すべての子どもたちが
笑顔のスクラムを組んでいけるような未来は保障されているのでしょうか”
なーんて、当ったり前ぇのゴタクをならべたわけよ」
大家「うーん、でも当たり前のことも、そうなってなきゃあ言わなきゃいけない」
やま「そうは思うんだが、こんなのは小学校の頃に親や先生から感じとった、
いわゆる“戦後民主主義”ってやつから一歩も出てねえことなんだなあ」
大家「だからその辺に無数に漂ってる小惑星ってわけかい?」
やま「そう、なんの力も持たずに漂ってるだけ・・・」
大家「でも、そんな星くずでも分け隔てなく見守って下さる人がいるって、
いつかやまさん、言ってたんじゃないのかい?」
やま「ああ、この人・・・人かどうかわからねえけど、ポニョのおっかさんだ」
大家「今日はこのおっかさんに免じて・・・」
やま「ポニョだけに、あっしの人生、崖っぷちだ・・・」
大家「おあとがよろしいようで」

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